第28話
☆☆☆
「では、昨日の小テストを返します」
国語の先生が順番に名前を呼んで答案用紙を返していく。
ミハルの番が来て教卓へ向かうと、先生がしかめっ面をしていた。
「どうしたの大野さん、最近成績がよくないわよ? 国語は一番得意だったはずでしょう?」
先生から渡されたテストの結果は100点満点中25点だ。
ミハルはその点数に目を見張った。
先生の言う通り国語は一番の得意科目で、小テストなら100点の常連だったはずだ。
それがどうして、いつの間にこんなことになっていたんだろう?
答案用紙を持つ手が震える。
おかしい。
こんなの現実じゃない。
私は勉強だってできるはずだ。
たくさんの夢を叶えてみんなから愛されて、だから……これは夢!!
ミハルは答案用紙をその場に捨てると廊下へと駆け出した。
後から先生が呼ぶ声が聞こえるけれど無視してトイレに駆け込んだ。
個室に入って鍵をかけて、スカートのポケットを探る。
その中には一粒のキャンディーが入っていた。
なにかあったときのために、あのキャンディーを一個だけ持ってきていたのだ。
学校で食べるつもりなんてなかったけれど、もう限界だった。
こんな悪夢早く覚めてほしい。
ポケットから取り出すと、赤色のキャンディーには少しホコリがついていた。
それも気にせず口の中に放り込む。
イチゴの甘い味が口いっぱいに広がって、ミハルを幸せな気分にしてくれる。
「美味し~い!」
得意科目で悪い点数を取ってしまったことなんて、すぐに頭の中から消えていった。
代わりに強い眠気を感じてミハルは洋式トイレに座り込んだ。
こんなところで寝ちゃダメ。
そう思っても抗えない眠気に吸い込まれていったのだった。
夢の中でミハルは先生に当てられたが、スラスラと解答していた。
それはまだ習っていないとても難しい質問だったので、クラスメートからの歓声が沸き起こった。
質問した本人である先生も驚いた顔でミハルを見つめている。
「大野さん、ちょっといい?」
授業が終わって帰ろうとしていたところで、担任の先生が声をかけてきた。
「なんですか?」
「あなたは本当に頭がいい生徒よ。このまま日本で勉強を続けるなんてもったいないと先生は考えているの」
「どういうことですか?」
「思い切って海外へ出てみる気はない? あなたは英語もフランス語も中国語もできるから生活の支障もないでしょう。海外なら飛び級のある国もあるから、あなたの実力に合った勉強ができるんじゃない?」
先生の興奮している声色が伝わってきて、こっちまで興奮してきた。
私が海外で勉強?
しかも飛び級?
まるで夢のような話だった。
「はい、私行きたいです!」
ミハルがそう返事をすると後はトントン拍子で話しは決まった。
海外になるいつくかの学校にかけあったところ、どこの学校でもミハルの存在を欲しがった。
ミハルの学力が今大学生並であるということも、特別テストの結果わかった。
「よかった。これでミハルの本当の力を発揮するすることができるわね」
お母さんも安心したようにそう言ってくれた。
お父さんはすぐに仕事をやめることはできないから、海外ではしばらく一人暮らしになりそうだ。
だけどミハルなら大丈夫。
言葉の壁もないし、その国のことをなんでもよく知っている。
「お父さんたちは後から行くから、ミハルはしっかりと勉強していなさい」
空港まで送ってくれた両親に見送られて、ミハルはひとりで飛行機に乗ったのだった。
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