第12話
その後をついて行こうとしたが、思わず足を止めていた。
トオコは膝を強く打ち付けたようでなかなか立ち上がろうとしない。
顔をしかめて痛みを我慢している。
「セイコ?」
ユウキに呼ばれても、セイコはその場にしゃがみこんでいた。
「大丈夫?」
そう声をかけて手を差し出す。
「セイコちゃん優しい~!」
今までトオコとバカにしていた男子生徒が声を上げる。
「ほんと、可愛くて性格もいいとか、天使かよ」
「付き合いたいよなぁ」
「お前じゃ無理だって!」
そうだよ。
手を差し伸べたのは別にトオコのためじゃない。
ただ、自分の人気を更に押し上げるための演出だから。
自分にそう言い聞かせた。
トオコのことなんて大嫌いだし、助けてあげたいとも思っていない。
「……ありがとう」
トオコは聞き取れないくらい小さな声で言うと、セイコの手を握りしめた。
セイコは力を込めてトオコを助け起こす。
「ほら、もう行くぞ」
呆れたようなユウキの声に急かされて、セイコはそのままトオコに背を向けて歩き出したのだった。
☆☆☆
これで私の株はまた上がるかもしれない。
そう思いながら、自室で「悪口ノート」を開いていた。
最後の方はトオコへの恨みや妬みなどでノートは真っ黒だ。
自分がここまでトオコに執着してことを見せつけられた気がして驚いた。
今でもトオコのことは嫌いだけれど、ここまでじゃない。
なんならトオコの存在なんてすっかり忘れてしまう時だってある。
欲しかったものをすべて手に入れたことで、トオコを羨ましいと感じなくなったからだ。
「このノートはもういらない」
そう呟き、セイコはノートをビリビリに破いてゴミ箱へ捨てたのだった。
☆☆☆
翌日も変わらない朝が来る。
A組の教室へ入ればハルナとカナが近づいて来て、休憩時間も友達と一緒に忙しく会話する。
そして放課後になればユウキが家まで送って帰ってくれる。
そんな、もう慣れてしまった1日がやってくる。
「おはよー」
A組の教室の戸を開けて、誰とにもなく声をかける。
普段なら必ず返事があるのだけれど、今日は珍しく誰からも返事がなかった。
どうしたのかな?
少し疑問に感じつつも、そのまま自分の席に座って教科書を引き出しの中へ入れていく。
そうしている間にハルナとカナが登校してきた。
2人仲良く肩を並べて、昨日のテレビ番組について話をしているみたいだ。
「おはよ」
机に座ったまま2人へ声をかける。
しかし2人はなにも答えず、そのままセイコの机の横を通り過ぎて行ってしまったのだ。
セイコは目を丸くして2人の姿を見つめる。
やっぱり声が聞こえなかったのかな?
でも、あんなに至近距離で声をかけたのに?
疑問が胸の中に膨らんでいく。
それからもセイコは一人だった。
普段はすぐに近づいてくるハルナとカナは全然来てくれない。
今になって雑誌を広げたとき、教室中央から笑い声が聞こえてきて振り向いた。
そこにはトオコを中心にしてハルナとカナがいたのだ。
3人とも楽しそうな笑い声をあげている。
どうして!?
思わず勢いよく立ち上がり、3人の方へ近づいて行った。
「今日はどうしたの? なんで?」
2人へ視線を向けて質問するが、その声が震えてしまった。
ハルナとカナはお互いに目を見かわせた後、気まずそうに笑う。
「私達あんなに仲が良かったのに!」
思わず声が大きくなってしまい、慌てて口を閉じた。
「ごめんね。やっぱりトオコとの方が楽しいんだ」
「うん、私も」
ハルナとカナはそう言って苦笑いになった。
「そんな……」
セイコは愕然として後ずさりをした。
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