第28話

ずっと静かに事の成り行きを見守っていた陛下は重々しい口を開きました。


「王子、どう責任を取るつもりだ」


陛下はこの短い時間ですっかり老け込んだ表情を浮かべて王太子に問いかけました。


「俺は命令しただけで何も悪くないです父上!皆が勝手にしたことです!」


王太子は呆気にとられて騒動を見守っていた側から主役へと再び陛下の声によって押し戻される事になりました。

自分がした行いが間違っていたと知っても尚、認める訳にはいかないと言い訳をする王太子に陛下は首を振って答えます。


「それが事実だとして……ここまでの騒ぎになった以上お前だけお咎めなしとはなるまいよ」

「何故ですか!私はシヴァに騙されていました!それにヘスティア嬢の噂の証拠を集めさせましたがそれが間違いだったのは無能なあいつらが悪いのです!私は被害者です!」


必死に訴える王太子は自分の非を一切認めようとはしませんでした。

むしろ、なぜ自分が非難される立場になるのかと怒りを露にして陛下へ言い募ります。


「王子、お前は『噂の真実を突き詰めろ』と何故言わなかった?」


シュラウドは陛下と王太子のやり取りを静観していましたが、話にならないと悟ったのか静かに問いかけました。

シュラウドの確信をつく問いかけに王子はサッと、顔色を変えてそれからすぐガタガタと震えだしました。


「お前は一時期の感情に流されて自分の都合のいいように皆を操った。この意味がわかるな」


シュラウドはいつの間にか辺境伯としてでなく王弟として王子に厳しい言葉を向けました。

それを聞いて、陛下は心づもりの整った顔で静かに最後の審判を下しました。


「お前は王族の立場でありながら、公平な目を私利私欲によってくらました。王とは国の天秤なのだ。その王となるように育てたお前がこれほどまでとは、私もまた王に座する資格はない。」


陛下はもう取り返しのつかない所にまで来たことを言外に告げました。

令嬢一人に振り回され、かき乱された王太子が皇帝になったとして誰が王家についてきてくれるというのでしょうか。

赤裸々な身内話を公の場でしてしまった以上、自分達にはこの先にどんなことがあっても恥ずかしい噂と後ろ指をさされる未来が待っていると知っているような口振りでした。


「そんなっ!では誰が王家を名乗るのです」


王太子は陛下に言われてようやく自分がどんな恐ろしい事を仕出かしてしまったのか気が付いたようでしたが、まだ王族と言う権威にしがみつようという浅ましさを見せました。


「いるだろうそこに、もう1人。この国の頂点に相応しい立派な王が」


陛下の言葉に、シュラウドへ皆の目が注がれました。

この場を支配し、誰よりも勇敢で美貌の優れたシュラウドに皆が羨望の目を向けます。

それは、一度は失われたはずの曇りない視線でした。

彼らは皆、シュラウドが次期王になるに相応しいと認め、誰一人として否を唱える者は居ませんでした。

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