第3話

思えば、生まれた時からシュラウドは曖昧な立場を強いられていました。


シュラウドの父、リッシュは皇后よりも美しい妃を次々と囲い込む派手な性格で国中の美女を自分の物にしようと企むような卑しい人間でした。

そんな妃の中でも一等お気に入りだったのがシュラウドの母セレナータでした。

美しい緑がかったブロンドに、美しい白い肌を持って生まれたシュラウドは国中から集められた妃の中で一番の美貌を受け継ぎました。

そんな上げればきりがないほど美しいシュラウドの切れ長の二重から覗くブルーアイ。

シュラウドが視線を送るだけで、誰しもを虜にしてしまう魅力を持ったシュラウドは何もかもを持って生まれたのです。


それだけではありません。

幼い頃からシュラウドは大人を凌ぐ明瞭な子供でした。

1を聞けば10を答え、第一王子を差し置いて王になるのではと危惧させる王の素質をシュラウドは生まれながらに持ち合わせていました。

どんな地位の者にでも分け隔てなく言葉を交わし、初対面の者とでも朗らかに笑い合うシュラウドは周りの支持を次々と集めていきました。

シュラウドを指導した者が口をそろえて筋がいいと褒める剣術もシュラウドは持ち合わせていました。

子供だと侮りシュラウドを舐めてかかった大人がすぐに負けを認めるほど大人顔負けの腕前を身に着けたシュラウドは、誰もが表立って口にしなくても皆が次の王だと認める力を持っていたのです。

大人を凌ぐ聡明な子供だと、王の側近達に恐れられる様子はシュラウドの記録係として誇らしい物でした。


そんなシュラウドに面白くないと顔を顰める者たちが居ました。

第一王子ドナルドを支持する側近や、貴族達でした。

彼らは、自分達の思う政治権を握るため、ドナルドを王に据えて自分達の私利私欲を肥やそうと企むような者たちです。

賢い王になりそうなシュラウドが邪魔で仕方がないのか、リッシュに彼らはドナルドがいかに優秀であるかを述べ、シュラウドを蹴落とそうとしました。


「一刻も早く、ドナルド様を次の王太子に任命するべきです」

「いや我が跡継ぎは、シュラウドとする」


噂と真実がまじりあい、混沌を極める中、リッシュはある日、煩い貴族達を集めて宣言しました。

次の王は妾妃の中で一番可愛がっていた女の息子であるシュラウドを王太子にと望む声に貴族達は驚き、妃たちは殺気立ちます。

リッシュは全てをわかっていながらそれでも、シュラウドを王太子にしようとしました。

シュラウドが優秀だったからではありません。

リッシュの目的はただ一つでした。

自分に中々関心を示さないシュラウドの母を手に入れるため。

私利私欲のためだけにシュラウドを利用したのです。


「陛下、それはなりません。兄弟が序列を無視してしまえば多くの血が流れてしまいます」

「……そなたは自分の腹を痛めた息子が王になる事を望まないというのか?」

「私はあの子がただ幸せに生きてさえくれればいいのです」


セレナータが喜ぶだろうと告げた筈が、一番心を得たい彼女を悲しませることになるとリッシュは思っても居ませんでした。

セレナータは聡明な人でした。

自分が妾で後ろ盾がない庶民の出であることを理解し、立場を弁えていました。

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