第14話
「陛下、ご無礼と知りながら発言をお許し頂けますでしょうか?」
シュラウドは、ヘスティアの震えが収まった頃を見計らうと、陛下に向かって頭を下げました。
陛下の許可なく発言をすることは許されない。
それはこの国の常識でした。
「かまわん、そなたは私の弟なのだ。気負わずともよい」
陛下はそう言ってシュラウドの言葉に答えると、辺りが一瞬にして騒がしさを取り戻しました。
シュラウドが王弟であることを知るのは、一部の者だけだったのです。
表に決して出てくることのない病弱な王弟と、辺境の地で武勇の名を欲しいままにしている男が同一人物だとは思いもしなかった事でしょう。
「陛下の寛大なお心に感謝いたします」
シュラウドが答えると、陛下は短い返答の後にシュラウドの腕の中にいるヘスティアへと、何かを考えるようにして彼女を見つめました。
かねてより密かに囁かれていたシュラウドの宝物。
それがまさか自分の息子の婚約者であったなど、今この瞬間が訪れるまで気が付かなかったのです。
シュラウドが彼女を大切にしていると知っていたなら王太子の婚約者にするはずがありません。
なぜ教えなかったのかと、陛下は彼を責めるように目を眇めました。
そんな視線を向けられてはたまりません。
彼は王の使いではあるのものの、傭兵でもなければ伝達係でもないのです。
王族の記録係。
彼がここに居るのは全て、自分に与えられたシュラウドの行動を全て記録することが仕事でした。
それ以外に彼が自主的に何かをするとすればシュラウドに頼まれたから意外に他なりません。
「話を続けなさい」
彼女もまた陛下を見つめました。
長らく自分が兄のように慕っていたシュラウドが陛下の弟だったなど信じられなかったのです。
なぜ教えてくれなかったのかと、彼女は陛下から彼に動揺した視線を向けて訴えかけました。
彼は自分に突き刺さる視線を無視することに決めました。
筆を持って仕事をするフリをして誤魔化しました。
彼はシュラウドの事を誰にも話さないと約束をしていたのです。
それが例えシュラウドの宝物であるヘスティアであっても、国の王であっても変わりません。
彼にとってはシュラウドが唯一無二の王様だったのです。
伝えなかった事を責められるとはいえ実際に起こると心苦しいものを抱きながら彼は筆を動かしました。
これから始まるシュラウドの言葉を一つも漏らさない事が彼の仕事です。
「殿下がいう性根が腐った女は本当にヘスティア嬢でしょうか?」
シュラウドは、その場にひとつの疑問を投げました。
聡明さを感じさせる伸びやかなテノールが静まり返ったホールに響き渡ります。
誰も、何も言えませんでした。
恐ろしさのあまり動く事さえできません。
シュラウドの一言はそれほど怒りを孕んだ声だったのです。
彼は一人だけ静かに筆を動かしました。
彼だけがシュラウドの怒りを理解していたのです。
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