第13話

傍で控えていた兵士2人が「立て!」と声をあげ、一人が動けないでいる彼女に槍を構えて近寄り、もう一人が彼女の腕を取ろうとした時でした。


「お待ちください」


静かな声がその観劇に静止をかけました。


その声は誰よりも彼が聞いてきたはずなのに、今初めて聴いたような声をしていました。

ずっと、彼の傍で事態を見ているだけだったシュラウドが発した一言には強い怒りが込められていました。

俯いた彼女の傍にシュラウドが近寄ると、兵が怯えた表情で距離を取りました。


彼には辺境伯の表情が見えなくとも想像できました。

彼女が婚約破棄を言い渡されるずっと前から彼の隣にシュラウドは居たのです。

シュラウドが静かに蓄えた怒りの炎がどれほどなのかを彼だけは唯一知っていたのです。


誰にも知られる事なく確実に燃え上がらせていた怒りを携えたシュラウドはその場にいる人を一人残らず殺してしまいそうなほどの威圧感をだして彼女を自分の腕の中にしまい込みました。


シュラウドが一等大切にしてきた美しい宝物。

彼が見守り続けた美しい二人が寄り添う姿に先程までの騒ぎに気を取られていた参加者たちは感嘆の息を零しました。


「シュラ……大丈夫か?」

「どうして貴方がここに?」


シュラウドはヘスティアの問いには答えずに代わりに上着を脱ぎ、震えたままの彼女にかけてやるとヘスティアの震える肩を抱いてシュラウドは王太子と男爵令嬢に鋭い視線を向けました。


彼はシュラウドに抱かれるヘスティアに男爵令嬢が鋭い視線を向けたのを偶然目にしました。

それもそうでしょう。

男爵令嬢はシュラウドにずっとアピールをしていたのにも関わらず、挨拶はおろか言葉を交わせることも殆どなかったのです。

憎しみの籠った男爵令嬢の視線は、ヘスティアへの嫉妬が渦巻いていましたが、王太子は気が付いていないようでした。


彼女は自分を支えるシュラウドを信じられない物をみる表情で見つめました。

今日は、彼女と王太子が婚約をしたお披露目パーティーで、王家に属するものと、王に近しい者達、それから彼女の血縁者しか招かれる事のない格式の高いパーティーだったのです。


辺境伯であるシュラウドと王家のつながりなど聞いた事もなかったヘスティアにとって、シュラウドの存在は予想できないものでした。

ヘスティアはシュラウドがどうしてここに現れ、自分を助けてくれるのかわからない様子で戸惑っているように彼の目には映りました。

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