第18話
しかしそんな大切な話をシュラウドは聞いていませんでした。
自分の腕の中で羞恥色に染まった宝物に夢中だったのです。
赤い頬を隠すことなくシュラウドの腕から逃れようとする彼女を逃さないようにすることに意識が向いていたのです。
今を逃してしまえば彼女の本心を聞けないかもしれないと危惧したシュラウドは、この機会を逃すつもりはありません。
腕の中で身じろぎする彼女にだけ聞こえるようにシュラウドは、囁きました。
「ティアは……ずっと私に会いたかったのか?」
シュラウドは、信じられないような気持ちで彼女に尋ねました。
彼女に花を送り続けて10年。
その間に彼が彼女から会いたいという言葉を聞いた事はありませんでした。
だからこそ、シュラウドは花を送るだけで満足していたのです。
彼女が婚約者と結ばれる事を望むのならと、身を引くことが出来ない自分の執着心を彼女が望む兄の姿に隠し続けてきたのです。
シュラウドは、辺境の地へ行くと告げた日の事を思い出していました。
シュラウドが18歳の成人を迎え辺境伯となった日の事の事です。
あの日、10歳の彼女の誕生日を迎える日を待たずに辺境に行く事にした自分の選択が間違っていた事にシュラウドはようやく気が付きました。
もっとよく彼女を見ていれば、辺境の地に行く日を先延ばしにしていれば……とあの時に選べたであろうたらればを思えばキリがありません。
彼に漏らしていた本心のほんの少しだけでもシュラウドが知っていたのなら、シュラウドが彼女に会う事を控える事もなかったのです。
「シュラは……ずっとずっといじわるだわ」
機会を逃すまいとするシュラウドの執念に負けた彼女はそう言って脱出を諦めたようでした。
シュラウドの腕の中に囚われたまま彼女が出来る精一杯の反抗として彼女は拗ねた口調でシュラウドの返事を肯定しました。
未だに頬は赤く、目を潤ませた彼女をシュラウドは二度と逃すつもりはありません。
素直でない彼女の言葉であってもシュラウドをこれ以上喜ばせるに値するものはないのです。
ずっと自分だけが彼女を求めていると思っていたシュラウドと重みは違うとはいえ、彼女もシュラウドに会いたいと願ってくれていた事をシュラウドは今初めて知ったのです。
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