第29話
「陛下、私は…王家の血が流れるだけの貴族です」
陛下をはじめとした期待の目を受けて、シュラウドは自分が王になるには相応しくないと口にしました。
幼い頃に王位継承を剥奪されてしまったシュラウドには王弟ではあるものの、王座に就く資格はありません。
辺境伯を賜る事になったのもそのためです。
二度と王家を名乗らせてなるものかと、王妃が手を回し、シュラウドは辺境伯という厄介な役割を押し付けられたのです。
彼女と別れてから寝る暇を惜しんで辺境の地の為に駆けずり回るシュラウドを記録係はずっと見てきました。
彼はシュラウドが今更王家に戻り、王を名乗るつもりがない事を知っていました。
「シュラウドすまない、理不尽にお前を振り回し、王位継承権までを剥奪しながら都合のいいことを言っているのはわかっている。ただ、民の為に考えてくれまいか?」
陛下はそう言ってシュラウドを見つめました。
その目は、シュラウドが何を言っても受け入れると答えるまで根気よく説得してみせるという強い意志を含んでいました。
貴族達も口々にシュラウドを支持しました。
この国の誰よりも優れた剣術を持つ辺境伯が王となるのであればこれほど心強い事はありません。
「…わかりました、後で話し合いましょう」
自分が受け入れなければその場が収まらないと判断したシュラウドは静かに陛下の提案を受け入れました。
陛下の目が安心したように柔らかくなったのを彼は見ていました。
ずっと、陛下がシュラウドに負い目を感じていた事を彼は知っていたのです。
陛下は自分よりもずっとシュラウドが王となる素質がある事を見抜いていました。
幼い頃から自分を凌ぐ弟を王にと前王に訴えていましたが、一度もその言葉を聞き入れては貰えませんでした。
肩の荷が下りたと格好を崩した陛下は王座から立ち上がるとシュラウドの前に立ちました。
並んで立つと、シュラウドよりもずっと陛下の背は小さく見えました。
彼はそんな二人を不思議な気持ちで眺めていました。
「ありがとうシュラウド、不甲斐ない兄ですまない」
陛下は王でありながら、兄として自分の非を詫びました。
「貴方はまだ王に立つものだ、謝罪を口にしてはいけません。」
王は簡単に謝るものではありません。
相手につけいられる隙を与えるようなものなのです。
最後まで王らしからぬ態度の陛下にシュラウドは陛下を嗜めます。
その口振りは陛下を長らく支えてきた辺境伯としての言葉でした。
シュラウドはいつでも陛下を王として認め、誰よりも陛下に忠誠を誓っていたのです。
陛下はそんなシュラウドが治める国の今後が素晴らしいものになる未来を見ました。
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