9話:約束が違う

2023年1月1日。あけましておめでとうございます。続けると長くなりそうなので短めです。





「ふう……」


 仮想世界から戻った私は、重い体をどうにか起こして、VRマシンを外す。仮想世界から現実に戻る時の、全能感が消える感覚はいつになっても慣れない。


「おつかれー。いやぁ、すごいね君」


 私より先にログアウトしていた神竹先輩が、首だけをこちらに向けてきた。正面にはすでに電源の堕とされたモニターが置いてあった。先ほどまであれで見ていたのだろう。


「あ、お、おつか―――「狐ヶ裡弧りこおおおお!!!」ひぃっ!」


 花鷹さんが大声を上げて跳び起きてきたかと思ったら、眉根を寄せて迫ってきた。


 こ、この人、怖いよぉ……。


 ついさっきの試合でも、最後にものすごい形相で睨んできたのだ。その口で、今みたいに叫ぶような声で私の名前を呼んでいた。


威圧しないでほしい……も、漏れそう。


「なんで途中で抜けたの!? まだ試合は残ってるでしょ! さっさと戻れ!」


「だ、だって、せ、先輩が……」


 私は助けを求めるように神竹先輩に目を向けた。


「私がいいって言ったんだよ、花鷹ちゃん」


「はぁ!? 何を勝手に!」


「実力を見たかったからね。始まる前からやりたくなさそうにしていたから、一対二で勝てたらログアウトしていいよって」


 こくこくこくこくこくこくこく!


 神竹先輩に便乗して、私は思いっきり首を縦に振った。閉鎖された学校の中では、先輩の言葉は絶対。それは立場的には陽キャさんより上だと信じたい。


 それに、先輩からの提案というのは、実質的に命令なのだ。一人で帰っても、萌ちゃんなら許してくれる……はず。


「ぐっ………」


 苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべて、花鷹さんは私から離れてくれた。


 よ、良かったぁ……。


「お疲れ様。やっぱり勝てなかったわね」


 私が安堵していると、萌ちゃんも起き上がってきた。


「で、でも、危なかったよ。初めてのマップだったし、久々だったし……」


「ノーダメージで勝っておいてよく言うわ」


「あ、あはは……あ、じゃ、じゃあ、約束通り、私はこれで……」


 約束は約束だ。二対一で勝ったのだから、もう帰っていいはず。これ以上ここにいたら、また花鷹さんに絡まれるかもしれないし、さっさと逃げたい。


 萌ちゃんには………うん、後で説明しよう。早く離れないと、花鷹さんに絡まれそうだし。


 私はカバンを持って、こそこそと扉の方へと向かおうとした。


 肩を掴まれた。


 首をぎぎぎと曲げて、振り返る。


 神竹先輩が、笑顔で立っていた。


「なに帰ろうとしてるの?」


「…………へ? いや、だって、帰っていいって……」


「いや、ログアウトしていいとは言ったけど、帰っていいとは言ってないよ?」


「は? え?」


 何を言っているんだろう。


 え、だって、帰っていいって……あ、言われてない、かも……。


 委縮した私が動けずにいると、萌ちゃんが私の隣に回り込みながら腕を肩に回してきた。


 顔を近づけてきて、言う。


「リコ、言ったわよね。一か所だけなら部活見学に付き合ってくれるって。リコは親友との約束を破るような子だったの? 私、すごく悲しいわ」


「う、あ……」


 耳元で囁かれるウィスパーボイス。首筋に電気が走ったような感覚に襲われて、私は背筋を震わせた。


 耳にかかる萌ちゃんの吐息。肩に回された腕の体温。


「は……はっ……」


 自然と口から息が漏れた。ばくばくと鳴る心音がうるさい。妙にえっちだから、興奮しているのだろうか。


 い、いや、ちがう。これは絶交されるかもしれない恐怖だ……!や、やっぱり友達料を……。


 私が鞄から財布を取り出そうとすると、神竹先輩は私の方をぽんぽんと叩いてきた。


「まあまあ、そんな嫌がらなくても、質問に答えてくれたら解放してあげるからさ」


「ほ、本当ですか?………」


「ほんとほんと」


「…………」


 前門の先輩、後門の陽キャ。唯一味方であるはずの萌ちゃんも、友情という鎖で私を縛ってきている。逃げ場がないどころが、身動きすら取れない。


 とりあえず、私はその場で正座した。


 隣に座った萌ちゃんは、私の腕に抱き着いてきた。親友の私にはわかる。これは拘束だ。腕に力入っているし。





他に書きたいのできそうなので更新速度は落ちます。

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