3話:待機室にて 神竹視点
まあ、無理だよなぁ。
死んですぐ待機所にやってきた私は、小さくため息をつく。
待機所とは死んだプレイヤーが文字通り待機する場所だ。正面には大きなモニターがあり、周囲にはゲームセンターにあるような機械が並んでいる。待っている間暇にならないよう、運営からのサービスだ。当然、未だ戦っている味方と話すことはできない。
「お疲れー」
私は備え付けのソファに座る『先客』に声をかけた。
萌ちゃんである。
「あ、お疲れ様です。流石に強いですね」
萌ちゃんは席を譲るようにソファの端に移動する。空いたスペースに、私はド仮と座り込んだ。
「賭けにでたんだけど、流石に二人抜きできるほど甘くなかったねぇ」
「うーん、まあ二対一じゃ仕方ないですよ。ところで、リコちゃんはどこにいたんですか?」
「モニター見ればわかるよ」
「それは確かに」
百聞は一見に如かず。私が顎でモニターを示すと、萌ちゃんは真剣な表情で見始めた。
状況としては完全に一対一。お互い、相手を探すのに苦労すると思われるかもしれないが、そんなことはない。
タクティカルモードのルールには、時間がたつにつれてマップの端から足場が消えていくという仕様がある。
落ちれば即死。
モニターを見ればすでに崩壊は始まっているようで、右下に映るマップが段々と狭くなっていた。緑と赤の点が二つ、マップ上の映っている。
花鷹ちゃんとリコちゃんの位置だ。
どうやら、リコちゃんは崩壊に沿って散歩を続けているらしく、視界はゆっくりとしか動いていない。一方、花鷹ちゃんはマップ中央付近の防衛ポイントで周囲を警戒しているようだ。
「時間かかりそうだなぁ」
「そうですね。リコも探索してるみたいですし」
「探索というか散歩でしょ、あれは。っと、ごめん。悪気はないんだけど……」
リコちゃんはこの子の友達だったなと、私は咄嗟に言い繕う。
「ああ、いえ。散歩でも合ってると思いますよ。このマップでやるの、あの子は初めてだと思うので」
「確か、この野戦マップが出たのは半年くらい前だったかな?」
『ガンラノク』は今年で7年目になるゲームタイトルだけれど、その人気っぷりもあって、今でも頻繁にアップデートを繰り返している。野戦マップもその一環で登場していた。
「そうですね。受験勉強と家事で出来なかったみたいですけど」
「ああ、なるほど……」
そういえば君らは元受験生だったなと、私は独り言つ。
「しかし、結果の分かっている試合を見るのは暇ですね」
「……おおう?」
それ君が言うの……?
友達を貶すような発言が萌ちゃんから飛び出たので、どう返したらいいかわからず、微妙な反応をしてしまった。
あれ、この子達、友達じゃなかったのかな……?
萌ちゃんの愛くるしい見た目からは想像もできない毒舌である。
「……リコちゃんとはあまり仲が良くない感じ?」
「え? どうしてそうなるんですか? 少なくとも、私は親友だと思ってますけど」
「え、ああ………ううん?」
ますますわからなくなった。
私が腕を組んで悩んでいると、萌ちゃんは「ああ」と声を上げた。
「この試合、負けるのは私たち……花鷹さんですよ」
「そ、それはどうかなぁ……」
まさか初動のセオリーをガン無視して散歩をし始めるような子に、花鷹ちゃんが負けるとは思えない。
もちろん、勝負に絶対はない。スナイパーライフルを除けば、S&W59Reは最高威力をに設定されている。ヘッドショットが決まれば一発KOもありえるだろう。でも、100回やって95回は負けるであろう戦いを前に、親友とはいえそこまで言い切るのは贔屓が過ぎるように思える。
「マップに慣れてないリコちゃんになら、花鷹さんとの連携がうまくハマればワンチャンスあったかもしれませんけどね。この通り、私はやられてしまいましたから。一対一じゃまず勝てません」
「ふ、ふぅん?」
「信じられないかもしれませんけれど、見れば分かりますよ」
「それもそうだね」
私は状況の動かない試合へと、意識を向け直した。
次は明日
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