4話:接敵 花鷹視点
「どこにいるのかなぁ?」
塹壕に隠れて周囲を警戒するのも飽きてきた私は、周辺を探し始めた。
もちろん、移動中に遮蔽物に身を隠すのは忘れない。照準を合わせられないように、動き求めることはなかった。
「隠れてるだけじゃ終わらないよー?」
私が歩くたびに「ざく、ざく」と土を踏みしめる音が耳に届く。
VRFPSでは足音は索敵においてとても重要だ。
足音を立てないように動くことは基本中の基本―――なのだけれど、今はむしろ見つけてほしかったりする。
先制攻撃をされても、直ぐに身を隠せば問題はない。
調子に乗って寄せてきたところを、滅多撃ちにしてやればいいのだ。
―――初対面だけど、あの子の力量は大体わかったしねぇ。
私たちが戦った神竹先輩は一人だった。それが実は囮で、私たちが無警戒に突撃したところで狐ヶ裡弧リコとやらが奇襲を仕掛けてくるのも考えていたけれど、それもない。
つまり、狐ヶ裡弧リコは意味もなく味方を完全に孤立させたのだ。それだけでFPSプレイヤーとしての程度が知れるというものだろう。
どのスポーツでも、味方がいれば連携をするのが当然だ。実際、私も佐祥萌には一緒に行動するように話したし、それは彼女も了承していた。私が何も言わずとも、彼女は射線を通そうと横に展開さえしてくれた。
そういう意味では、あの子は上手かった。神竹先輩の奇襲に対応できてなかったのは残念だけれど、それは先輩の立ち回りがよかったからに他ならない。あれを責めるのなら、手りゅう弾にうまく対応できなかった私も悪いだろう。
―――ざっ。
微かな足音が、私の鼓膜を震わせた。
私は反射的に遮蔽物に身を隠すと、頭だけを微かに出して、そちらを警戒する。
「………はぁ!?」
思わず、間抜けた声を上げてしまった。
待て、待て、待て待て。
あいつは何をしてるんだ!? 死にたいのか!?
なんで、物陰に隠れもせず、某立ちしてる――――!?
「初心者かよっ!」
私は足音を立てて、相手に位置が分かるようにしていたし、位置的に考えて、狐ヶ裡弧リコは私が遮蔽物に隠れる姿も見えていただろう。なら、狐ヶ裡弧リコも遮蔽物に隠れて被弾を減らすのが定石だ。
警戒して損した気分だ。
「アホらし。さっさと終わらせよ」
私は口調を直すのも忘れて、遮蔽物から上半身を出し、銃口を棒立ちの狐ヶ裡弧リコへと向ける。照準が狂わないように、しっかりと狙いを定めて―――。
ガァンッ!
一発の銃声が響いた。
私の銃のものではない。狐ヶ裡弧リコが撃ったものだ。見れば、狐ヶ裡弧リコのS&W59Reの銃口が私の方へと向いている。撃ったと証明するように、微かに煙のエフェクトも表示されていた。
「苦し紛れか―――」
私はそう判断して、AK27の引き金を引く――――。
カチッ。
引き金を引く軽い音が鳴った。
「……あれ?」
呆れすぎて力が抜けて、押せてなかったかな?
私は改めて照準を合わせて、引き金を引く。
カチッ。
カチッ、カチッ。
カチ、カチ、カチカチカチカチ。
「―――な、なんで!?」
何度引き金を引いても、弾が出ない。
VRFPSには弾がジャムる―――弾詰まりを起こすこと―――ゲームタイトルもあるにはあるけれど、少なくともガンナロクではそんな仕様は存在しない。弾が出ないなんてことは、ありえないのはずだ。
「いや―――ッまさか!」
私は自分の持つAK27に指をかけ、スライドするような動作を取る。すると目の前にパラメーターが現れ、そこには今のAK27の状態が書かれていた。
「な、なんでぇ!?」
AK27の耐久値が、ゼロになっていた。
ガンナロクに限らず、VRFPSの銃には耐久力が備わっている。打ち合いの中で被弾することもあるけれど、めったに壊れることはない。なにせ、AK27なら100発は当てなければ壊れないほどに強固な物なのだ。1マガジンで30発の弾が装填されているから、3マガジンと10発である。リロードを挟むことも考えると、少なくとも15秒はかかるだろう。
それが壊れた……すぐに神竹先輩の顔が浮かんだけれど、あの人から被弾した覚えはない。
考えられる可能性は、たった一つ。
狐ヶ裡弧リコのS&W59Reの弾丸一発で、破壊されたのだ。
「そ、そんなことが―――」
「え、えっと、とりあえず、一勝目ですね」
「っ! しまッ……」
直ぐ近くから聞こえた、狐ヶ裡弧リコの声。
振り向いた先、見えたのは銃口。
彼女のS&W59Reが、私の眉間をとらえていた――――。
―――ガァンッ!
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