2話:二対一 神竹視点
LOGIN。
意識が切り替わる感覚の直後。見慣れた文字を見ながら、私はやってきた三人の一年生について考える。
一人は有望株だけど、他二人は……まあ様子見かな。入部してくれるかも分からないし。
VR部の部員は私の他に一人だけだ。いくらEスポーツとしてメジャーになったとはいえ、競技用の高性能VRマシンは相応に高価なため、真剣に取り組もうとすると敷居が高いのもある。
その上、うちのVRゲーム部は一昨年に発足したばかりの弱小高校。去年は入部員数ゼロ。先輩が卒業して、今年の大会参加すら危ぶまれていたくらいだ。
そのまま部員が足らずに、今年で廃部になる未来すら想像していた。
………いざ人が増えるかもしれないって思うと、欲がでるなぁ。
そんなことを考えていると、ヴンと音を立てながら、リコちゃんがログインしてきた。
狐ヶ裡弧リコ。
アホ毛が特徴の、黒髪の女の子。背筋は若干曲がっているし、VRゲーマーによくある若干の髪の凹み癖もない。多分、普通の内気な女子高生なんだろう。
私は落胆する気持ちを心の内にしまい込んで、リコちゃんの元へ歩み寄った。
「ガンラノクはやったことある?」
「あ、はい。一応……」
「じゃあ細かいルールはいいかな。武器は好きなの使っていいからね。3分後にスタートだから、あまり時間はかけられないよん」
私は軽くアドバイスをしながら、周りを見渡す。ピストル、サブマシンガン、ライトマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、グレネードランチャーなどなど。それぞれ種類も豊富。現実には存在しない、魔法銃と呼ばれる物さえある。
ファンタジー要素を取り入れた銃撃戦が、このゲームのウリなのだ。
とはいえ、今回は至ってノーマル。現実に寄せたルールなので、魔法関連の装備は使えないけれど。
「……わかりました」
そう言いながら、リコちゃんは目移りすることなくピストルの陳列棚へと向かう。
手に取ったのは、S&W59Reと呼ばれるマグナムリボルバー。S&W59の第二世代として作られた骨董品レベルのモデルだが、ゲーム用に性能が調整されている銃だ。威力は高いし、連射ではないので一発あたりの精度も十分。軽いので俊敏な動きも可能な武器。一方、連射ができないので当たり前に当てづらい。
いわゆる上級者向きの武器だけれど、近距離でヘッドショットを決めれば一発で倒せることもあるので、ビギナーズラックが働く銃でもある。
まあ……どこにでもいるのだ。こういう、ちょっと背伸びをした武器を使うプレイヤーは。
落胆の度合いが深まるが、表には出さないように努めた。
「マニアックなの使うんだね?」
「あはは……足を引っ張らないように、頑張りますね」
控えめに笑うリコちゃんは、その足でサバイバルナイフと手りゅう弾、回復アイテムを装備した。
………まあ、今回は花鷹ちゃんの実力を見極めるのがメインってことで。
私はこのゲームでは最もスタンダードな武器である、『AK27』を手に取って、サブウェポンのコルト・ガバメントと手りゅう弾、回復アイテムを装備。そのまま意味もなくストレッチをすること一分、カウントダウンが始まるのだった。
◆
―――マジかよ!!!
私は飛び交う弾幕を前に身を隠しながら、落胆を通り越して絶望していた。
開始直後、リコちゃんはあろうことか徒歩で散歩し始めたのだ。様子見をしようと思って、私が何も言わなかったせいもあるけれど……。
地形は野戦タイプ。道中にある障害物や塹壕を駆使して戦う、比較的新しいマップだ。
タクティカルモードでは、最速で交戦ポイントへたどり着き、先手を打つことが基本となる。それはこの野戦マップでも同じで、初動で敵のHP(ヒットポイント)を削れれば回復をされる前に距離を詰めて有利なポジションを奪えるし、逆に削られてしまえば塹壕て防衛に徹するのが定石だ。
「せんぱぁい。身を隠してるだけじゃあ、勝てませんよぉ?」
銃声の合間に、花鷹ちゃんが声高に叫ぶ。
「あの後輩、実質2対1で好き放題いってくれるじゃん……ッ」
このチーム分けにしたのは私だけれど、まさか散歩し始めるとは思っていなかった。せめて一緒に行動してくれれば、やりようはあったのに。
「あの子、どこまで行ったんだ―――はぁ!?」
思わず嘆かずにはいられなかった。
マップを確認してみれば、味方を表す緑色のマークが、ここから離れたマップの隅っこで寂しく点灯していたのだ。
敵の二人とも、こっちにいるんですけど!?
「……はぁ。援護は諦めるしかない、か」
通信で合流するように呼びかけることもできるが、つい声を荒げてしまいそうだからやめておく。ゲームに熱中すると言葉遣いが荒くなるのは、ゲーマーあるあるだ。
私は軽くため息を吐きながら、塹壕から顔を一瞬だけ出して周りを確認する。花鷹ちゃんは壊れた戦車から顔だけを出して弾幕を張っており、萌ちゃんは射線を広げようと横に移動している。多分、2:1という状況がバレているのだろう。完全に獲物を囲い込むやり方だった。
「容赦ないね!?」
「先輩相手に舐めプなんて、そんな失礼なことできませんからぁ?」
「礼節のあるデキた新入生だよ。恨めしいほどに!」
憎まれ口をたたきながらも、私は小さくほくそ笑む。
第一印象はとても大雑把そうな花鷹ちゃんだったけれど、プレイングは慎重の一言。彼女達には居場所の分からないリコちゃんを警戒しているからこそ、雑に距離を詰めずにじりじりと追い込んできている。萌ちゃんもうまく障害物を使って私からの射線を切りながら、私を一方的に打てるポジションへと移動しているようだった。
「こうなったらきっついなぁ……」
私は一か八か、手りゅう弾のピンを引き抜くと、花鷹ちゃんの方へと放り投げる。放物線を描きながら飛んでいくのを見届けることなく、私は爆発するタイミングを見計らった。
「チッ!」
花鷹ちゃんの舌打ちが聞こえて、弾幕が止んだ―――いまだっ!
爆発すると同時。私は萌ちゃんが隠れる、人ひとりが隠れられる程度の大岩へと疾走。萌ちゃんからの射撃が飛んでくるが、私は身を低くして被弾を減らす。萌ちゃんが顔を出せないように、適当な感覚をあけて三点バーストもお見舞いしてやる。
「ぐっ……!」
「そこぉ!」
花鷹ちゃんからの射線を切るように、大岩を右から回り込む。慌てて岩に身を隠そうとする萌ちゃんだったが……。
「遅いっ!」
―――ガガガガガガッ!
残弾21、超至近距離でのフルバースト。数発外れたものの、十数発の鉛玉を受けた萌ちゃんは、そのまま崩れ落ちた。
萌ちゃんの死体―――と言ってもデフォルメされた小さな人形の姿である―――の上に現れるDEADの文字。
残弾はゼロ。
急いでリロードをしなきゃ―――。
ふと、私の顔に影が落ちた。
嫌な予感を憶えて、恐る恐る頭を上げる。
花鷹ちゃんが銃口をこちらに向けながら、私を見降ろしていた。
「流石ですねぇ! 考える暇も与えず、一気に詰めた方が良かったかなぁ?」
「ははは……」
「くひっ」
花鷹ちゃんの女の子の物とは思えない愉悦の笑顔をみて、私は頬を引きつらせた。
容赦なく引かれる引き金が、見えた。
ダダダダダダダダッ!
一秒で七発の射撃を可能とするAK27。その銃弾をもろに受けた私は、当然のように、死んだ。
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