ガンラノク〜VRFPSでチートを疑われて引退した少女、高校で無双し返り咲く〜

@misisippigawa1

時代設定と序章


 Virtual Reality First Person Shooting Game。


 通称VRFPSと呼ばれるそれは、電子の世界に作られた仮想空間で行われる銃撃戦の対戦型オンラインゲームであり、2XXX年現在において、一つのスポーツとして世界中で認知されていた。


 メジャースポーツ同様にプロ契約が交わされ、四年に一度の世界大会では国を挙げてのお祭り騒ぎ。その流行は社会だけに及ばず、学校に部活ができるほどの大盛況だった。


 とりわけ日本・韓国といったアジア地域においては、国民的スポーツとして取り上げられるほど。


 そんなVRFPS界隈だが、密かに一人の覆面アマチュアプレイヤーに注目が集まったことがある。


 その覆面プレイヤーはとりわけ二チームに分かれての対人戦において、圧倒的な実力を誇っていた。勝率は9割を超えていたとさえ言われている。


 国民的スポーツとなったVRFPSでは、どのゲームタイトルにおいてもセキュリティは万全。不正使用は容易なことではない。故に、リアル情報を一切明かさないそのプレイヤーに、一部界隈では様々な憶測が飛び交った。


 それでも何らかの不正をしているのではないか。

 中身はトッププロプレイヤーなのではないか。

 運営が用意した高性能AIなのではないか……そんな陰謀論さえ囁かれ始めた中、信じがたい一つの噂が流れた。


 曰くー――その覆面プレイヤーは、日本の子供であると。


 そんな馬鹿げた噂が流れ始めてすぐのことだった。


 話題の覆面プレイヤーが、姿を現さなくなったのは。


◆◆◆


 ひ、人が多い……。


 神奈川県横浜市某所。駅からバスで20分ほど行った場所にある、県立桜峰高校の校門前。そこで私は独り佇んでいた。


 今日が高校に入学して初の登校日。地元から引っ越してきたせいもあって、アウェイ感が凄い。田舎者だとバレたら、きっと虐められる。テレビが家にあるって知られたら無理やりネット配信を契約させられる……!


 恐る恐る周りを見れば、すでに周りには新入生らしき生徒たちや、部活の宣伝を行う先輩たちであふれかえっていた。特に、バスケットボール、サッカー、野球、バレーボールなど、運動部の看板の前にいる先輩達が大声をあげている。卓球や水泳、文芸部なんかは静かなモノだ。看板だって雑である。

 吹奏楽部は、とにかく楽器の音がうるさかった。


 怖い。


 高校はパリピ予備軍の集まりだ。きっと、大学生になったら居酒屋でビールを片手にポールダンスを踊っているんだ。新歓コンパという名の強制飲酒大会での死亡事故がいまだに無くならないのがいい証拠だ。


 初めての通学路で不安になっていたとはいえ、時間に余裕を持ちすぎた。


 速く教室に行きたいけど、萌ちゃんを待たなきゃだし……ぅう……。


「前ヲ通リマス。ゴチュウイクダサイ」


「ひぃ!? ……あ、な、なんだ、ロボットか」


 周辺を巡回しているらしいお掃除ロボットが、私の前を通った。大きな施設の前にはよく見られるロボットらしいけれど、少なくとも田舎では一台も見かけたことがない。

 少しだけ興味を惹かれて、私の視線は自然とそちらに向かう。


 転倒防止のためか円錐型をしており、液晶パネルの部分には記号で作られた顔が映っている。基本的に笑顔だが、ゴミを見つけると怒ったような顔をしていた。


 よく見ると可愛かった。


 この世の終わりのような場所だけれど、あのロボットの周りにだけ和んだ空気が流れているようだ。


「癒される……」


「オレサマ オマエ マルカジリ」


「~~~~!?」


 突如として背後から聞こえた声に、私は飛び上がるようにして振り返った。


 そこにいたのは小柄なショートヘア―の女の子。同性の私から見ても、守りたくなるくらい可愛らしい。顔の横にぶら下がる、ミサンガのような髪飾りが特徴的だった。


「も、萌ちゃんかぁ……びっくりさせないでよ、もう」


 見知った顔で安心した私は、身だしなみを整えながら、はずみで落とした鞄を拾った。


 萌ちゃんは中学からの友達だ。

 まあ、中学と言っても、VR方式の通信制の学校なので、実際に会うのはこれで二度目。一度目は引越し直後にオフ会ということで済ませている。


 昔はそれほどでもなかったらしいけれど、今はVR式通信制の学校なんて珍しくもない。仕事も学校もVRがあればほとんど普段通りに仕事や勉強ができる。オフィスを持たない会社だってあるくらいだ。


 まあ、自主練の体育は苦痛だったけれど……。端末で運動量が測定されるから、さぼるわけにもいかないし。


 高校もお母さんに言われなければ、VR式の高校に進むつもりだったのに。


「ごめんごめん。小動物みたいで可愛くって、ついからかいたくなっちゃって」


「身長は私の方が高いのに……」


「なにおう? 私だってこれから成長するのよ!」


「そ、そうだね……?」


 男子ならまだしも、女子はこれ以上の成長は望めない気もするけど……いや、その理想を応援するのが友達ってものだ。うん、私はおばあちゃんになるまで応援しよう。


「は、早く教室いかない? 私、もう足が棒みたいだよ」


 特に理由はないけれど、私は話題を反らした。


「え? どのぐらいここで待ってるの?」


「えーっと……一時間くらい?」


「早く来すぎよ!?」


「だ、だって、道に迷わないか、不安だったんだもん……」


「相変わらず心配性ね……」


 はぁとため息をつく萌ちゃん。

 うぅ……失望されちゃったかなぁ……まさか絶交されるんじゃ……ッ!


「ど、どうぞ友達料です。お納めください……」


「急にどうしたの!? ほら、ふざけてないで、早く教室行くわよ。あと5分しかないし」


「う、うん」


 中学の頃のように、私は萌ちゃんの後ろに付いて歩く。


 ………と、とりあえず、自己紹介を考えなきゃ。

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