10話:自宅にて①

年明けは多忙につき。

1/8 今までのエピソードで一部加筆中です。内容や設定等は変わりません。掛け合いは増えてるかも。


続きです。




 オートロック付きのエントランスを抜けて、エレベーターで上がること4階。10メートルほどの廊下を歩いて、私は朝も潜った扉を開けた。


「ただいまー」


 部活見学を終えて、スーパーでの買い物を挟んでの帰宅。買い物と言っても、電車に乗っている間に買う物を端末から予約購入しておいたので、実際は受け取るだけなので時間はかかっていない。


 このシステムは信用のおけるお店でないと新鮮さなんかが不安だけれど、いつも利用しているところは口コミの評価も高く、最近は行きつけのお店となっている。駅までの道のり途中にあるから、今後は通う頻度も多くなるだろう。


 昔は買い物する際は店員と対面しなくていけない時代もあったというから、現代に生まれて本気でよかったと思う。


 もしもそんな時代に生まれていたら、買い物すら満足にできず、餓死していたに違いない。


「おかえりー」


 私が靴を整えているタイミングで、後ろからお母さんの声が聞こえてきた。


 お母さんの狐ヶ裡弧栗子。ウェーブのかかったボブカットと無駄にでかい双丘が特徴的。いわゆる学生婚をしたらしく、最終学歴は中卒。年齢的に考えて、私くらいの年にはすでに私を身ごもっていたことになる。母親ながら末恐ろしい人種だ。母親じゃなければ、お近づきになろうとも思わないだろう。


 私は改めて「ただいま」と言いながら顔を上げる。


 お母さんが廊下でエクソシストポーズをとっていた。


 腹を上に向けての四つん這い。逆さから見た顔は、血が上っているのか少し赤らんでいる。B級ホラー映画にでも出てきそうだった。


「……何してるの?」

「いやぁ……丁度寝ててさ。立ち上がるのって疲れるじゃん?」

「絶対そっちのほうが疲れるよね」

「知ってる? 人は失敗によって成長する生き物なんだぜ」

「いらぬ失敗すぎる……」


 お母さんは「ちぇー」と言いながら立ち上がると、私から買い物袋をかっさらう。


「お、春キャベツ。今日のお夕飯が楽しみですなぁ」

「ロールキャベツだよ」

「おお、手作りかぁ。んー、今から良い匂いがしそう!」

「あ、でも、ちょっと時間かかると、思う」

「はーい。私もお夕寝したせいで仕事が少し残ってるから、ゆっくりで大丈夫だからね」


 お母さんはひらひらと手を振ると、そのままリビングへと消えていった。

 現在、お母さんはIT関係の仕事をしている。


 お掃除ロボットの制御プログラムだとか、警備ロボットの顔識別プログラムの設定などに関わっているらしい。所謂フリーランスというやつで、今時はそう珍しくもない職業だろう。


 ただ、お母さんはほんの一年前までは全く別の、営業の仕事をしており、ITの知識なんてないに等しいレベルだった。過労で倒れてからすぐに退職してITの猛勉強、今に至る。


 この人は本当に私の母親なのかと疑いたくなる行動力だった。


 私はさして重くもない学生鞄を自分の部屋に置いてジャージに着替える。家ではいつもこの格好だ。動きやすいからというのもあるけれど、制服のまま料理なんてしたらすぐに汚れてしまう。


 私がリビングに行くと、ちょうど食材を冷蔵庫に詰め込み終わったらしく、お母さんが買い物袋を折りたたんでいるところだった。


「すぐ始めるね」

「今帰ってきたばかりなんだから、少し休んだら? 初登校で疲れてるでしょ」

「だ、大丈夫だよ」


 私は簡単に手を洗うと、使いそうな食器をさっさと取り出していく。ロールキャベツだけだと味気ないから、付け合わせになにか作った方がいいだろう―――まあ、作りながら考えればいいか。


 私は冷蔵庫の野菜室からキャベツを取りだして、まな板の上に置いた。

 キッチンに立つのにも、最近は慣れてきた。


 一年前。お母さんが倒れてから練習し始めたけれど、最初は当然のように手を切ったし、炊飯の水の量を間違えたり、砂糖と塩を間違えたりしていた。料理初心者特有の失敗はすべて踏破した自信がある。まあ、練習の甲斐もあって今となっては手慣れたものだ。考え事をしながらでもできるほどに上達している。


 だからだろう。つい、今日のことが頭に浮かんでしまうのは。


 ――――あれ、本気なのかなぁ……。


 私はキャベツの下処理をしながら、回想する。




おそらく2-3分割。続きは今日の夜か明日上げます

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