6話:一対二① 花鷹視点

続きです。




「なにしてんのぉ!?」


 アナウンスを見た私は、今日何度目かの悲鳴を上げた。


 急に敵が自爆したのだから、仕方ないと思う。


 タクティカルモードでは復活ルールなんてないから、今頃、神竹先輩は待機場にいるかログアウトしていることだろう。ここから公平な勝負なんてできるわけがない。


 競技的に見ればこれは無効試合、あるいは不戦勝になるかもしれない。


「ここまでやるとはね……」


 走りながら、佐祥萌は呟いた。


「なに? なんか知ってるの?」


「……さっき、神竹先輩が言ってたのよ、待機室で。試しに1対2をやって欲しいって……まさか、自爆までするとは思わなかったけど」


「―――ふぅん?」


 なんで、という疑問は一瞬だった。


 私、花鷹花蝶は調子に乗ってるやつが大っ嫌いだ。特に、幸運、偶然、奇跡で手に入れた幸福を得意顔を浮かべてひけらかすような奴は、鼻っぱしを折ってやらなきゃ気が済まない―――そして、それこそが私の大好物なのだ。


 まぐれショットでこの私に勝った気でいるであろう狐ヶ裡弧リコの顔面に、AK27の鉛玉をぶち込んでやる。


―――さぞ、気持ちいいことでしょうねぇ!


 弱い者いじめ? ハンデがある?


 知ったことか。


 神竹先輩の行動に、どんな理由があるかは知らない。もしかしたら、何かリアルで用事ができたのかもしれない。でも、これはいわば、先輩からの命令なのだ。


 2対1でも存分にやれという、いわば大義名分。


 でも、これは仕方ないことなのだ。


 私はやりたくなかった。


 仕方なかった。


 そんな綺麗な言葉を並べて、すべて先輩のせいにできる。


 なんて私に都合のいい展開だろう!


「佐祥萌! 二人で一緒に、頑張りましょうね!」


「え、何その笑顔……まあ、やれることはやるけど、そもそもリコがやる気にならなきゃ―――」


 ―――ガァン!


「「っ!」」


 S&W59Reの銃声が聞こえた瞬間。私たちは近くの土嚢の裏へと、それぞれ身を隠した。


 弾が近くに着弾した様子はない。


「意外。やる気みたいね」


「……合図のつもりかなぁ?」


 でも、それでこそ嬲り甲斐があるというものだ。


 万全を期すため、私はこのマップの構造を改めて思い出す。


 まず、全体を上から見たときに、『こ』の字の中心に、さいころの『5の目』があるように見えるだろう。『こ』は塹壕、『5の目』は身を隠せる程度の岩。


 特に中心部は火山口のような形に盛り上がっており、中心の岩は一際大きい。コンセプトとしては、戦場の中心にある丘に隕石が落ちた後、といったところだろうか。


 中央のクレーターを敵陣側まで制圧できれば、高所という有利ポジションから頭出しで敵を狙うことができる。

 そのため、序盤の中距離戦による撃ちあいが鍵となるマップといえるだろう。


 今現在、私たちは自陣側のクレーター上に設置された土嚢裏へと隠れている。普通なら、敵陣側のクレーターから顔を出した敵と撃ちあいになるところだ。


 だが、どこを見ても狐ヶ裡弧リコの姿はなかった。


 さて、どう戦おうかなぁ。


 狐ヶ裡弧リコの武器は、銃声からいって先ほどと同じS&W59Re。タクティカルモードでは、近距離から中距離に特化した武器と言える。


 対して、私のAK27は中遠距離に強く、近距離でもある程度は戦えるオールラウンダーな武器だ。場所を選ばず活躍できるので、競技では好んで使うプレイヤーが多い。


 ……そういえば、佐祥萌は何を装備しているんだろう。


 確認し損ねたなと、反対側にいる彼女へと視線を向ける。


 その手に握られているのは、ベレッタM91。主にサブ武器として使われるハンドガンだった。


 ……なんでハンドガン?


 よくよく見ると、その背には無骨な長身の銃が抱えられていた。


 ショットガンだった。


 KS23Ⅲ。


 大口径のショットガン。ゲーム用に調整されているとはいえ、反動と威力が兎に角でかい。一発撃つと上半身がのけぞるレベル。

 そのせいで連射力は最低クラスになっている。反動で仰け反った体勢を整えるのに時間がかかるのだ。『撃つ・構える・照準を合わせる』のワンアクションが、平均で3秒はかかるだろう。


 当然、得意レンジは超近距離。


 連射ができないので一発外せば敵に攻撃の隙を与えてしまう。その分、一発当てれば勝負が決まるほどの高威力。入り組んだ地形の市街地マップでは、慣れたらKS―23Reが最適解と言われるほどだ。


 とはいえ、野戦マップで使えないこともない。


 このマップは中距離戦がメインだけれど、遮蔽物が多いため、近距離戦になることも多々ある。隠れながら近づき、自分の得意な距離へと持っていくのも醍醐味なのだ。


 思えば、さっきの試合でも佐祥萌は距離を詰めようとしていた。近距離が得意なのかもしれない。ハンドガンを装備しているのは、距離的にショットガンよりも戦いやすいからだろう。


 なら、戦い方はさっきと同じ形がベスト。


 私が中距離から援護をしながら、佐祥萌が距離を詰めるのをカバーする。


 佐祥萌と狐ヶ裡弧リコが戦闘している間に私が距離を詰め、止めを刺す。


「佐祥萌。作戦を伝えるよぉ?」


 私は思い描く形を言葉にして、彼女に伝えていく。




次からバトルです。

そして私は明日も仕事です。

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