斧と花

北野かほり

第1話

 

 「星空が、落ちてくる」

ねぇ、みて。あの孤独に燃える赤い星を。

 


※ ※ ※


 魂が解放される音を聞いた。

 じっとしていても皮膚が裂けるほどの寒さと吐いた息の音すら響く静寂。

 のっぺりとした夜のなかに宝石の光が輝いて、少年の心を捕らえ、思考は停止した。

 まるで作られたオブジェのように身動き一つしない少年の足元に広がる深く、底のない闇には光る宝石が転がっていた。

 あれのなかから出てきた。

 同じだと少年は思った。

 いま、少年の前で星が流れ落ちる。

 あの星を落としたのは自分だ。

 確信するには十分だった。

 拾った宝石はすでにひび割れ、朽ち果てていた。まるで骨を砕いて挽いたみたいな砂のような白。

 あれのなかにはこれがある。そして、僕のなかにもこれがある。

 これ、――星。

 満天の星は美しく、まだ歌っている。

 それはとても素晴らしいことだ。


 いたましいものもまた、こんなにも美しい。

 少年の皮膚がじわりと焼けて、手のなかの宝石は灰にかわり、消え失せる。燃え尽きた星はもうその色すら残せない。だが、それでいい。一時燃え上がり、消えてしまっても。その過程は完璧で、完成されていた。

 確かにそのとき、少年は救われた。

 だから


 「ごめん」

 呟いた。


 もう一人の自分の名を口にして。

 確かに、そのとき、魂は解放され、救われた。

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