第6話

「電話ぐらい、通じろ~~」

 翌日、ジンの支部に向かう途中のヒメは思わず頭を抱えて悪態をついた。

 昨日の夜からツギノに電話をしているが、返答はない。ラインも、メールも放置されている。

 霧谷の直属として、日本中を巡るエージェントで多忙なのは知っているが、今ほど腹が立つことはない。

 観月尽こと、ジンとは何者なのか。

 エージェントであれば、UGNのデータベースを確認できる。それでわかることなんて最低限だが、今はそれでもいいからほしい。

 しかし、イリーガルの権限ではそこまでのアクセスは出来ない。ツギノに助けて貰おうとしたら、これだ。

 もう一つのツテ――白井ならば即座に必要な情報以上のことを確認できるだろうが、そのあとにどんな請求を求められるかわかったものじゃないと却下する。

「はぁ~~、これは本格的につんだわ」

 昨日から奮闘した結果、何もわからない。

 着信音にスマホを見るとメールが一件届いていた。

【今日は庭で花が咲いてました】

 名前も知らない相手とずるずると続いているメール。昨日は天気の話、今日は庭。こまめに寄越されるメッセージはやりとりを楽しんでいるのはわかる。

【実は困ってる。あるエージェントについて知りたいんだけど、どうやったらいいかな】

【UGNのサーバーにアクセスすればある程度は調べれますよ】

【私、イリーガルだから無理なの】

【知り合いは?】

【いない。あなたに調べてっていっても、そのとき個人情報ばれちゃう】

【それなら、周りから聞くか、誰かのIDを借りるとか】

 周り――支部のメンバーにジンのことを聞きまわる、か。

【わかった。ありがとう。がんばってみる】

 ちょうど最寄り駅についた。

 駅からぼとぼと歩いて支部に向かう。こんな状態で転移演算をしては確実にミスると思ったからだ。


 ヒメがイリーガルになった理由は二つある。それは傷のようなものだ。

 一つは信じていた友達から手ひどい裏切りにあった。

 この業界では珍しくないのかもしれない。それでもヒメは傷ついてもう立ち直れないくらい苦しんだ。

 友達を二人、なくした。

 あさひと白井はもう友達でもない。

あさひの失恋、白井の失敗、ヒメの裏切り。

 三つ重なった苦いそれを持て余して逃げた。

 けど戻ってきた。

 どれだけ辛い思いをしてもここにいるのは初恋の人に会いたいからだ。

 傷のような恋だ。まだヒメを縛って、先に進ませてくれない。

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