歴史物×恋愛小説の大作。良質のジュブナイルをどうぞ

本作の舞台は、奈良時代の上野国です。
最初にお伝えさせて頂きますと、古典文学的な要素のある本作品ですが、内容はとても読み易いです。
会話のやり取りは、現代物小説のそれと同じような感覚で読めますし、馴染みの無い名詞にはちゃんと説明が付きます。
歴史物ということで二の足を踏む方は多いかも知れませんが、何話か読んで頂ければ、作者様の工夫を察して頂けるかと思います。

お話としては、幼少期から壮絶な環境で育った少女が、紆余曲折を経て、衛士として豪族のお屋敷に召し抱えられます。
この主人公の女の子が、健気で頑張り屋なのに、割といつも可哀想な目に遭います。
ろくでなしの親、地元の色ボケ領主様、主君の嫁候補(性格がキッツい)など、年若い少女に降りかかるには荷が重い試練が次々と。
終いには好いた相手とも、何故かいつも噛み合わないと言いますか、想いがすれ違ってばかり。
誰か本当にこの娘を幸せにしてやってくれと、親のような感情を持つこと請け合いです。

恋のお相手は、衛士の団長様になります。
この方、しっかり者で真面目なのは良いのですが、硬派すぎて中々主人公の愛に報いてくれません。
女として見てしまい戸惑うことはあれど、鉄の意志で理性を保ちます。
主人公のことを大事に思っているのに、口に出てくるのは厳しい物言いばかり。
この辺本当に、古き良き日本男児と言いましょうか。

主人公は物語開始時点で十歳足らずです。作中では物語が進むにつれ、時間が経過し立派な女性へと変わっていきます。良質のジュブナイル小説を読んでいる気分ですね。

書き手の一人として言うと、奈良時代って資料が少ない(イメージ)なんですよね。
書こうとすると、技量の他に知識も相当要求されると言いましょうか。
そんな時代が舞台の長編というだけでも、本作は極めて貴重な作品だと思います。

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