第69話 卒業式当日を迎えました

レオナルド様と1日一緒に過ごしたあの日、私の心は随分と吹っ切れた。好きな人の為に身を引く事が、どれほど辛いか知っている。それでもレオナルド様が幸せになれるなら、それだけで私は幸せだ。


明日はいよいよ卒業式。今日中に荷物をまとめて、地下通路の出口付近に置いておこうと思っている。ひとつづつ荷物を詰めていく。あまりたくさんの荷物を持って行かない方がいいと、メアリーが教えてくれた。特に小説などは重いため、持って行くのは諦めよう。でも、この本は持って行こう。


私の大好きな小説、エレフセリア王国に住んでいる時にお金をためて買った、大切な小説だ。既にボロボロだが、これだけは持って行かないとね。他にも、洋服や下着なども詰めた。よし、準備は完了ね。


周りを確認し、急いで地下通路に荷物を運んだ。私が国を出るときに置いて行く手紙の準備も出来た。後は明日を迎えるだけだ。


このベッドで眠るのも、今日で最後なのね。初めてこのベッドで寝た時は、あまりにも柔らかくて大きくて、興奮したものね。なんだか昨日の事の様に思い出すわ。


この7年、本当に幸せだった。大切な家族やレオナルド様、レオナルド様の家族に囲まれて。


お父様もお母様もきっと悲しむだろうな。そう思ったら、胸が締め付けられた。でも、私はもう決めたのだ。そのままきつく瞳を閉じて、なんとか眠りについたのであった。



翌日、制服に袖を通す。この制服を着るのも、今日で最後だ。今日は卒業式の後、そのまま学院でパーティーがある。今回は制服でパーティーに参加する事になっている。


きっと帰ってくるのは夜だろう。王宮に戻ってきたら、すぐに準備をして国を出ないといけないのね…そう思ったら、なんだかこの部屋が懐かしくて、つい見まわしてしまった。


いつもの様に門に向かうと、両親とシャルル、レオナルド様、さらにレオナルド様の両親も待っていた。


「オリビア、卒業おめでとう」


「おめでとう、オリビア」


「お父様、お母様、ありがとうございます」


なぜか悲しそうな顔をしているお父様とお母様。そんな2人を、ギュッと抱きしめた。きっとこうやって2人と話すのも、最後かもしれない。


「オリビア、本当に大きくなったな。もう卒業だなんて…オリビア、もしレオナルドと結婚するのが嫌なら、婚約を解消してもいいんだよ。君はずっとこの王宮で暮らせばいいのだから…」


いつになく真剣な表情のお父様。


「陛下、いい加減にしてください!オリビアは僕と結婚して、公爵家で暮らしますので」


すかさずレオナルド様がお父様に文句を言っている。でも私は、1人クレティーノ王国で暮らすつもりだ。


「さあ、オリビア、そろそろ行こうか。遅刻すると大変だからね」


「ええ、分かったわ。それじゃあ、お父様、お母様、シャルル、それから公爵様、お義母様、行って参ります」


皆に挨拶をして、馬車に乗り込んだ。これで両親の姿を見るのが最後かと思うと、どうしても目に焼き付けておきたくて、両親から視線を外すことが出来ない。


「オリビア、どうしたんだい?そんなに陛下や王妃様を見つめて。確かに明日から君は、公爵家に通う事になっているが、別に会えなくなる訳ではないんだよ。それなのに、そんな名残惜しそうにして」


「ごめんなさい、今日は卒業式でしょう?なんだか悲しくなってしまって。私、この学院で色々な事を経験したから」


「そうだね…しなくてもいい経験もしたね…」


「えっ?」


「何でもないよ。ほら、学院に着いたよ」


レオナルド様と一緒に馬車を降り、今日の会場でもあるホールへと向かった。すると、メアリーが私たちの方にやって来た。


「おはよう、オリビア、レオナルド様。今日は卒業式ね」


「おはよう、メアリー」


いつも以上に明るいメアリー。そりゃそうだ、今日は恋敵でもある私が、姿を消す日なのだから。きっと大好きなレオナルド様と一緒になれると、胸弾ませているのだろう。


「レオナルド様、今日の卒業パーティーの件で、少しお話があるのですがよろしいでしょうか?」


「ああ、いいよ。何かな?」


2人が仲良く話し始めた。イヤ…私、この人たちのそんな姿を見たくない…そんな思いから


「私、先に席に付いているわね」


そう伝え、その場から離れようとしたのだが…


「オリビア、僕の傍から離れてはいけないよ。最近少し自由にしすぎた事、反省しているんだ。今日は僕の傍にいてもらうからね。それで、メアリー嬢、何の話だったかな?」


そう言うと、私の腕をギュッと掴んだ。一体どういうつもりなの?好きな人と2人きりで話せるチャンスなのに。


もしかして、私が知らないだけで、2人の事が噂になっているとか?そういえばお父様も、急に“もしレオナルドと結婚するのが嫌なら、婚約を解消してもいいんだよ”なんて言っていたものね。


そんな事を考えてしまう。まあそれも、私が男性と駆け落ちしたとなれば、話しは別だろう。とにかく、私が消えれば丸く収まること。


そんな思いで、2人が話している姿を見守ったのだった。

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