第4話 ホテルも立派です

今日のホテルはまだつかないのかしら?あぁ…この馬車の揺れ、気持ちいいわ。


無性に眠くなり、ウトウトとしてしまう。


「オリビアは眠った様だね。それにしても、本当にこの子は私によく似ている。まさか銀色の髪まで引き継いでいるなんて。本当に可愛らしい子だ」


ウトウトとしている私の頬に、どうやらお父様が口づけをした様だ。唇の感触を感じる。でも、眠くて目を開ける事が出来ない。


「はい、オリビアが産まれた時、あなた様にそっくりだったので、驚きましたわ。オーフェン様、覚えていますか?もし私たちに子供が生まれたら、男の子ならシャルル、女の子ならオリビアにしようと言っていた事」


「ああ、覚えているよ。だからこの子の名前を聞いた時、本当に嬉しかったよ。シャリー、もう君を離さないよ!一生ね…」


「…私も、もうオーフェン様から離れるつもりはありませんわ。本当はあなた様がいつか迎えに来てくださるのではないかと、心のどこかで期待していたのも事実です。だから、オリビアが国に戻った時に苦労しない様、貴族のマナーや勉学はある程度教えて参りました」


そうか、だからお母様は、私に無意味なマナーや勉学を教えたのね。納得だわ。


「それならどうして私から…て、過去を振り返っても仕方がない。離れ離れだった10年を、これから3人で埋めていこう。もう二度と、君たちが私から離れないように、しっかり見張りも付けないと」


「アイーシャ様がいなくなった今、もう私はあなた様から逃げたりはしませんわ。幸いオリビアは、貴族に憧れている様ですし」


「それはどうかな?君は私から逃げた前科持ちだからね。信用は出来ないよ…とにかく、早くホテルに向かおう。そして、今日はたっぷり愛し合おうね。愛しているよ、シャリー」


「私も愛しておりますわ、オーフェン様」


どうやらお父様とお母様は、私が寝た(と思い込んでいる)事をいい事に、2人の世界に入っている様ね。まあ、私は空気が読める子だから、きちんと寝たふりをしているわよ。でも…少しだけならいいわよね…


少しだけ目を開ける。

こ…これは…

そう、お母様とお父様が熱烈な口づけをしていたのだ。こんな風に口づけをするのね。すごいわ!


その後すぐに馬車が停まった。さっきの両親の熱烈な口づけで、すっかり眠気が吹っ飛んだ私。目の前に広がる物凄く立派なホテルを前に、完全に覚醒した。


「お母様、このお城の様な建物がホテルなの?本当にこんなにも立派なところに泊るの?」


あまりにも立派なホテルに、完全に我を忘れ、鼻息荒くお母様に迫った。


「そうよ、オリビア。でも、こんなもので驚いていてはいけないわ。ペリオリズモス王国のお城は、もっと立派よ」


「これよりも立派なの?ねえ、そんな凄いところに、私の様な平民が住んでもいいの?逮捕されない?」


これ以上立派な場所で暮らすなんて、村で生まれ育った私には考えられないのだ。


「逮捕なんてされる訳がないだろう。オリビアは私の子供なのだから。さあ、もう夜は遅い。部屋に着いたらすぐに寝るんだ。いいね。オリビアが寝るまで、私がずっとそばにいてあげるよ」


私を抱きかかえたお父様が、そう言ってほほ笑んでくれた。


「え、本当?お父様がずっと傍にいてくれるの?嬉しいわ」


いつもは1人で寝ているから、お父様が傍にいてくれるなんて嬉しい。ついお父様の首に抱き着いてしまった。


「オリビアは本当にいい子だね。さあ、部屋に行こう」


お父様に抱っこされ、ホテルの部屋へと向かう。ホテルの中も立派だが、部屋も物凄く広くて立派だ。まるでお姫様の部屋の様に。つい興奮して部屋を物色しようとしたところで、お父様に捕まった。


「オリビア、部屋が気になるのはわかったが、もう遅い。すぐに湯あみをして寝よう。それから、彼女は君のお世話をしてくれるメイドだ。すまない、メイドをあまり連れてこなかったから。国に帰れば、たくさんのメイドが君のお世話をしてくれるからね」


「オリビア殿下、お初にお目にかかります。クリアと申します。どうぞよろしくお願いします」


お母様より少し年上かしら?茶色い髪の女性が、私に頭を下げた。それにしても、私の事を殿下だなんて!なんだか恥ずかしいわ。


「えっと…私はオリビアです。クリアさん、お世話になります」


クリアさんに向かって頭を下げた。すると


「殿下、私はメイドです。どうか私の事は、クリアと呼び捨てにして下さい。さあ、早速湯あみを行いましょう。こちらへ」


メイドは呼び捨てにするのね。そういえば、小説でもそんな感じだったわね。


クリアに連れられ、浴槽へと向かった。何なのこの浴槽、広すぎるわ。5人は入れそうね。そんな事を考えていると、私の体を洗い始めたクリア。


「クリア、私はもう9歳よ。1人で洗えるわ」


もう子供じゃないのだ。体ぐらい、1人で洗える。そんな思いで伝えたのだが…


「殿下、あなた様はもう平民ではないのです。貴族や王族は、いくつになってもメイドが湯あみの手伝いを行うのです。もちろん、お着替えなどを行うのも、メイドのお仕事ですわ。いいですか、殿下。少しずつ、王族の生活にも慣れて行ってもらいますからね」


そう言われてしまった。そうか、王族は自分で体も洗わないし、服も着ないのね。平民だった私には理解しがたいが、そういうものなのだろう。


それにしても、人に洗ってもらうって気持ちがいいものね。昔はお母様が私の体や髪を洗ってくれていたわ。なんだか懐かしい。


湯あみ後は、いい匂いがするクリームを全身に塗ってくれた。そして髪も丁寧に乾かしてくれる。


「殿下の銀色の髪、本当に美しいですわね」


そう言ってとかしてくれた。そう言われると、なんだか嬉しい。


寝る支度が出来ると、お父様とお母様が部屋に来てくれた。どうやら3人で寝る様だ。右にお父様、左にお母様がいる。それが嬉しくてたまらない。


「オリビア、随分と嬉しそうな顔をしているわね」


お母様がクスクスと笑っている。


「ええ、嬉しいわ。だってお父様とお母様が両端にいるのですもの。私、夢だったのよ。こうやって両親に挟まれて眠るのが。アリーが、いつも両親に挟まれて寝ているって自慢していたから。ずっと羨ましかったの」


「そうか…オリビア、寂しい思いをさせてごめんね。でも、これからはずっと一緒だ。さあ、今日は疲れただろう。お休み」


「おやすみ、オリビア」


お父様とお母様が私のおでこに口づけをしてくれた。


「おやすみなさい、お父様、お母様」


お父様とお母様の手を、ギュッと握る。2人の手、温かい…

両親の温もりを感じながら、あっという間に眠りについたのであった。

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