第3話 皆にお別れの挨拶をします
「今日はもう遅い。ホテルに泊まろう。さあ、シャリー、オリビアもおいで」
お父様が私とお母様を連れて出ようとしている。
「オーフェン様、私とオリビアは、今日はこの家で過ごしますわ。10年もの間、この家で暮らしてきたのです。片づけもしたいですし」
「シャリー、君は一体何を言っているのだい?君は元々、侯爵令嬢だ。それにオリビアは、国王でもある私の血を受け継いだ唯一の子。そんな君たちを、ここに置いておく訳にはいかない。どうしてもここに残りたいと言うなら、私もここに泊ろう」
「ペリオリズモス王国の国王でもあるあなた様が、このような場所で寝るなどいけませんわ。どうかホテルにお泊まりください!」
「それなら、君たちも一緒だ。オリビア、今日はホテルに泊まろう。広くて大きくて、とても綺麗なホテルだ。そうだ、君の為に、ドレスも準備しないとな。欲しいものは何でも言ってくれ。私は9年もの間、君の父親としての役目を果たせなかったのだから」
そう言うと、悲しそうにお父様が笑った。なんだかお父様が可哀そうになって、ギュッとお父様に抱き着いた。
「お母様、お父様を1人にするのは可哀そうだわ。だって、ずっと私たちと離れ離れだったのでしょう?ねえ、お母様、今日はホテルに泊まりましょう。私、ホテルというところに泊まってみたかったの!ね、いいでしょう?片づけは明日やればいいわ」
「オリビア…あなたって子は。わかったわ、それじゃあ、ホテルに向かいましょう。すぐに準備をするわね」
「よかった。それじゃあ、行こうか」
お父様にだっこされて、そのまま家を出る。すると、たくさんの村人が集まっていた。中には、アリーの姿も。
「あっ、アリー。聞いて、私ね。お父様が迎えに来てくれたの。だからね、ペリオリズモス王国に帰るのよ。お父様とお母様の故郷なの。それから私、王女様になるのよ。お父様がペリオリズモス王国の国王なんですって」
アリーに向かって叫んだ。どう?私、すごいでしょう。そう思ったのだが、なぜか固まっている。どうしたのかしら?
「シャリーちゃん、あなた、ここに来た時は本当に何も出来ないし何も知らなかったから、もしかしてどこかのご貴族かと思っていたけれど、まさかペリオリズモス王国の陛下の婚約者だったのですね。ごめんなさい、先ほど、そちらの護衛騎士様に伺ったの。」
いつも私たちの世話をよく焼いてくれる、クレハおば様がお母様に話しかけている。
「クレハさん、黙っていてごめんなさい。はい…私はペリオリズモス王国の元侯爵令嬢で、陛下の婚約者です。そしてオリビアは…」
「陛下のお子様なのよね。それにしても、オリビアちゃんは陛下にそっくりね。オリビアちゃん、本当のお父様にあえてよかったわね。シャリーちゃんも苦労した分、幸せになって頂戴ね」
「ありがとうございます…クレハさん」
お母様が泣いている。クレハおばさんも、なんだか悲しそうだ。
「クレハ殿とおっしゃられましたね。シャリーを今まで支えて下さり、ありがとうございます。これからは、私がシャリーとオリビアを幸せにしますので。それから、アリー殿といったね。オリビアと仲良くしてくれて、ありがとう」
お父様がクレハおば様とアリーにお礼を言った。
「あの…オリビア…よかったわね、お父様に会えて。それから、正真正銘のお姫様だったのね。あなた、ずっとお姫様に憧れていたものね。ペリオリズモス王国に行っても、元気でね」
「ええ、もちろんよ。そうだわ、アリーもペリオリズモス王国に遊びに来てね。私もまた、この国に遊びに来るから」
そう伝えたのだが、なぜか困った顔をしているアリー。どうしたのかしら?
「さあ、そろそろホテルに向かおう」
お父様が向かった先は、見た事もないほど立派な馬車だ。
「お父様、あれに乗るの?」
「ああ、そうだよ。あまり目立たないようにという事だったから、少し小さい馬車で申し訳ないけれど」
これで小さい馬車ですって!こんな立派な馬車、見た事もないわ。
馬車の中はとても広くて、フカフカだ。
「お母様、お父様、3人横に並んでも十分座れる広さがあるわ。それにこのイス、柔らかくて気持ちいい」
「よかったわね、オリビア。さあ、外にいる皆に手を振りましょう。もう二度と…会う事はないかもしれないから…」
なぜか寂しそうにお母様が呟いた。二度と会う事はない?一体お母様は何を言っているのかしら?明日お家のお片づけをしに来るはずなのに…
不思議に思いつつも、お母様と一緒に村の皆に手を振る。なぜかアリーも悲しそうな顔をしているし。結局皆の姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
「さあ、シャリーもオリビアも、そろそろ座ろう。馬車は揺れるから、万が一バランスを崩して怪我をしたら大変だ」
お父様が私とお母様を掴み、そのまま座らせた。でも、なぜかお母様をギューッと抱きしめているお父様。
「お母様ばかりずるいわ。私もお父様に抱っこされたい!」
9年間ずっとお父様は亡くなったと思っていたのだ。それが今日、お父様に会えた。私だってお父様と一緒にいたいのだ。
「ごめんね、オリビア。さあ、こっちにおいで」
お父様が私を膝に座らせてくれた。そして、お母様も抱きしめている。ふとお母様の方を見ると、安心した表情を浮かべていた。
お母様もお父様に会えて嬉しいのね。お母様は女手一つでずっと私を育ててきてくれた。これからは、お母様にも楽をして欲しい。お父様がお迎えに来てくれて本当によかったわ。心底そう思ったのだった。
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