第2話 お父様は生きていた様です

お母様に王子様が!そう思ったら、なんだか興奮してきた。扉からそっと2人の様子をうかがう事にした。


「どうして殿下が、ここにいらっしゃるのですか?アイーシャ様は…」


「アイーシャ…その名前、聞いただけで虫唾が走るよ。あの女は、私から君を奪った恐ろしい女だ。さらに君の両親と弟を事故に見せかけて殺したのも、あの女だ。私はあの女の悪事を探る為、あの女に近づいた。そして君がいなくなった3ヶ月後、アイーシャとその家族は、公開処刑されたよ。元ヴァーズ侯爵と夫人、嫡男デリスの殺害、さらに私の婚約者でもあるシャリーに嘘を吹き込み、国外に追放した罪でね」


「そんな…それでは殿下は、アイーシャ様を愛していらしたのでは…」


「あんな女、愛していない!私はずっと、君だけを愛していた。だからヴァーズ侯爵に頼み込んで、君を婚約者にしてもらったのではないか。それなのに君は、アイーシャの嘘にまんまと騙され、私の前から姿を消した。この10年、私がどれほど君を探し求めていたか…もう二度と君を離さないよ!」


美しい銀髪の王子様が、涙を流してお母様を抱きしめている。これはまさに、小説そのものだわ!よくわからないが、お母様はあの銀髪王子の婚約者だったのね。でも、アイ…何とかとかいう女に騙され、2人は離れ離れになっていた。あぁ、何て素敵な話なの!もっと詳しく聞きたいわ。もっと詳しく…


それに今聞いた話では、どうやらお母様は侯爵令嬢?だったのかしら?という事は、そのアイ何とかっていう女に、おじい様とおばあ様は殺されているのね。アイ何とかめ!許せないわ!


あっ、でもその女も、あの銀髪王子によって、処刑されたのよね。まさかお母様が、恋愛小説並みの恋をしていたなんて。


「さあ、シャリー。国に帰ろう。私はね、国王になったんだよ。でも、君意外と結婚するつもりはないから、未だに独身なんだ。後もう少し君を見つけるのが遅かったら、新たに養子を取ろうと思っていたんだよ。でも、君が見つかってよかった!」


あの人、国王なのね。どうやらお母様を国に連れて帰る様だ。そうすると、お母様は王妃様。ん?私はどうなるのだろう…

もしかして、私だけこの国に置いていかれるとか!

それは困るわ!


1人パニックになっていると。


「殿下…いいえ、陛下、私はもう国に帰るつもりはございません!それに私には、娘もおります。ですから、どうか私の事はお忘れになって…」


「私に君を諦めろだと!ふざけないでくれ。私がこの10年、どれほど君を探し求めていたか!もう絶対に離さない。娘がいる事も知っている。是非会わせてもらえるかい?」


銀髪の国王が、お母様に訴えている。と、次の瞬間、銀髪の国王と目が合った。


ゆっくりとお母様から離れ、フラフラとこっちにやってくる。ちょっと、なんだか怖いのだけれど…


「あの…」


「オリビア、どうしてこっちに来たの?」


お母様が私の傍に駆け寄ってきて、抱きしめてくれた。


「その子が、君の子かい?」


「はい…そうですわ…」


お母様が、私に覆いかぶさるようにして抱きしめてくれている。どうやら私をこの国王から隠している様だ。でもお母様、震えているわ。ここは私がお母様を守らないと!


「銀髪の国王様、お母様を虐めないで下さい!」


お母様の腕から抜け出し、お母様を守る様に両手を広げた。すると何を思ったのか、銀髪の国王が私と目線を合わせてきたのだ。


「私と同じ、銀色の髪に赤い瞳…君、オリビアと言ったね。いくつだい?」


「9歳ですわ!」


「そうか…オリビア、君はやっぱり私の娘だったんだね!」


そう言うと、私を抱きかかえた銀髪の国王。え?今私の事、娘と言った?


「シャリー、この子は私の子で間違いないね。家臣から君の子供の特徴を聞いた時、君が私の子を産んだのだと確信したよ。もしかして、私の傍を離れていった時には、既に妊娠していたのかい?」


「…」


何も答えないお母様。


「隠しても無駄だよ。顔の作りは君によく似ているが、この瞳の色。君も知っているだろう?赤い瞳は、我がペリオリズモス王国の王家にのみ引き継がれる色だ。ペリオリズモス王国の王家の血をひく者は、当時私と父上しかいない。父上はあの頃、ちょうど外国に行っていた時だ。それに君が姿を消すしばらく前から、私たちは結ばていたよね。シャリー、もう言い逃れは出来ないよ。この子は私の子だね?」


「…はい、オリビアはあなた様の子供です。国を出てしばらくしてから、妊娠している事に気が付きました…」


「それなら、どうしてすぐに国に帰ってこなかったんだ!私の子を身ごもっていながら、どうして!」


「あなた様はアイーシャ様を愛していると思っていましたので、今更身ごもった私が帰っても、迷惑かと思いまして」


そう言うと、お母様が泣き出してしまった。どうやらこの人が、私のお父様の様だ。


「あの…お父様とお呼びしてもいいのかわかりませんが、どうかお母様を責めないで下さい。お母様、言っていましたわ。“私はあなたのお父様を今でも愛している”と。だから、お母様を泣かせないで」


「あぁ…オリビア、何て君は優しい子なんだ!君を見ていると、昔のシャリーを見ている様だ。ごめんね、オリビア。今まで傍にいてあげられなくて。これからは、3人ずっと一緒だ。3人で国に帰ろう」


優しい笑顔でそう言ったお父様。3人で国に帰る。


「ええ、もちろんですわ。お母様、3人で国に帰りましょう。お父様と一緒に!」


「オリビアの言う通りだ。シャリー、帰ろう。3人で一緒に」


泣いているお母様を優しく抱きしめたお父様。


「…そうね…帰りましょうか…3人で」


お母様も泣きながらほほ笑んでくれた。


こうして私は、お母様の故郷、ペリオリズモス王国に帰る事になったのだった。

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