第9話 おじい様とおばあ様に会いました

ペリオリズモス王国に来て、1ヶ月が過ぎだ。それなりにこの国にも慣れてきたが、まだまだ分からない事がたくさんあり、戸惑う事も多い。それでも、お父様やメイドたち、さらに家庭教師の先生に支えられ、なんとか王女をやっている。


ただ…

なぜかお母様が、食事の時間すら姿を現さなくなった。お父様の話では、久しぶりに国に帰って来て、少し体調を崩してしまったらしい。あんなに元気だったお母様が!いてもたってもいられなくて、お母様に会いたいと訴えたが…


「オリビアには、まだ会わせられる状況じゃないから」


と、言われてしまった。それならと、お手紙を書いて渡したのだが、未だ返事が来ない。よほど体調が悪いのだわ。とにかく、一目だけでもお母様に会いたいと訴えたものの、未だに会う事が出来ていない。


「オリビア、今日も元気がないね。そんなに悲しい顔をしていては、シャリーもきっと心配するよ」


今日もお母様は、朝食も昼食も姿を現さなかった。


「お父様、お願いです。どうかお母様に、一目だけでも会わせてください!私、お母様が心配で…」


気が付くと、瞳から涙がポロポロと溢れ出ていた。ちなみに言葉遣いの指導も受け、たとえ両親であっても敬語を使う様にとの事で、今はお父様にも敬語だ。


「泣かないでおくれ。オリビアが泣くと、私まで悲しくなってしまう」


お父様がギューッと抱きしめてくれるが、それでもやはり私はお母様に会いたいのだ。


その時だった。


「陛下、少し宜しいでしょうか?」


家臣がお父様を呼びに来たのだ。


「ああ、すぐに行くよ。オリビア、また後で来るから。そうだ、オリビアは料理がしたいといっていたね。今度オリビア専用の厨房を作る様、手配するよ。だからもう泣かないで」


私の涙をぬぐい、おでこに口づけをすると、お父様は出て行ってしまった。


お料理か…

昔はよくお母様とお料理をしていたわ。でも、今は…


なんだか悲しくなって、クッションに顔をうずめ、1人涙を流し続けたのであった。



****

「…か、起きて下さい。殿下!」


う~ん、まだ眠いわ。


「殿下、陛下がお呼びです。どうか起きて下さい」


え…お父様が?


パチッと目を開けると、既に辺りは薄暗くなっていた。どうやら私、泣きながら眠ってしまった様ね。


急いで起き上がると、なぜか私を着替えさせるメイドたち。髪もハーフアップに結び直され、イヤリングとネックレス、さらに頭にはティアラを乗せられた。どうしてこんなにおしゃれをするのかしら?


メイドたちに連れられ、部屋から出る。そして、別の部屋に連れていかれた。すると


「お母様!!」


「オリビア!」


そこにはなんと、お母様がいたのだ。嬉しくてついお母様に飛びついた。見た感じ元気そうだ。よかったわ。


「お母様、どうしてずっと姿を見せなかったのですか?私、とても会いたかったのですよ。お手紙だって書いたのに!」


「ごめんね、オリビア。少し体調を崩していて。私もオリビアに会いたくてたまらなかったわ」


そう言うと、お母様が私を強く抱きしめた。私もお母様に抱き着く。あぁ、お母様の匂い…やっぱり私には、この匂いが一番落ち着く。


そんな私たちを引き離したのは、お父様だ。


「同じ屋敷に住んでいるのだから、そんなに喜ばなくてもいいだろう。さあ、一旦離れなさい。オリビア、実はさっき、急遽私の両親がやって来たんだ。私の両親、オリビアのおじい様とおばあ様は、ペリオリズモス王国の外れの街でのんびりと暮らしているのだが、シャリーとオリビアが帰って来たと聞きつけ、急遽やって来たんだよ」


「おじい様とおばあ様が?」


「そうだよ。さあ、君たちが来るのを、首を長くして待っている。早速今から会いに行こう」


どうやらお父様のご両親、私のおじい様とおばあ様に会う様だ。私は今まで、おじい様とおばあ様と言う人がいるなんて、夢にも思っていなかった。お母様の方のおじい様とおばあ様は、もう亡くなっているし。


一体どんな人かしら?急にやって来た私の事を、受け入れてくれるかしら?なんだか不安になってきた。お母様の手をぎゅっと握る。


「オリビア、今日はシャリーにベッタリだね。さあ、お父様のところにおいで」


お父様がすかさず私の手を掴んだ。どうしてお父様は、私がお母様にくっ付く事を嫌がるのだろう…そんな疑問を抱きつつ、おじい様とおばあ様の待つ部屋へと向かった。


そして、立派な扉の前で止まる。どうやらここの部屋におじい様とおばあ様がいらっしゃる様だ。なんだか緊張してきた。


「オリビア、緊張しているのかい?大丈夫だよ、私の両親は、きっと君を気に入るから」


そう言ってお父様が笑っている。本当に気に入ってくださるかしら?


ゆっくりと扉が開き、部屋の中に入る。部屋には銀色の髪に赤い瞳をした男性と、金髪にグリーンの瞳をした女性が立っていた。男性の方は、お父様によく似ている。


「シャリーちゃん!」


金髪の女性が、お母様に抱き着いた。なぜかポロポロと涙を流している。


「ごめんなさい、私たちがもっときちんと調査をしておけば、あなたのご両親と弟を死なせることも、あなたが国を出る事もなかったのに…それにしても、亡くなったあなたの母親にそっくりだわ。あぁ…シャーロット(シャリーの母)…シャリーちゃんがやっと国に戻って来てくれたわよ」


天井に向かって呟いているおばあ様。どうやらお母様とおばあ様は、知り合いの様だ。


「王妃様、どうか謝らないで下さい。私の方こそ、きちんと確認もせず、オーフェン様を残して国を出たのです。あの時もっと冷静な判断が出来ていたら…それでも、オーフェン様は私を迎えに来てくださいました。本当に感謝しております」


「シャリー殿、ヴァーズ侯爵夫妻と嫡男の件は、当時国王だった私の責任だ。本当にすまない。それから、オーフェンの元に戻って来てくれて、本当にありがとう。オーフェンにとって君は全てなんだ。どうかこれからは、オーフェンの傍にいてやって欲しい」


「もちろんですわ。もう私は、オーフェン様から離れるつもりはありません」


お母様の言葉に、おじい様やおばあ様はもちろん、お父様も嬉しそうにしている。皆の幸せそうな姿に、私までなんだか嬉しい気持ちになったのだった。

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