第65話 メアリーに自分の気持ちを伝えました

翌日、いつもの様にレオナルド様の馬車に乗り込む。すると


「オリビア、どうして昨日は1人で帰ってしまったのだい?1人で帰っては危ないと、伝えていただろう?何かあったのかい?心配事があるなら、僕に相談して欲しい!」


真っすぐ私を見つめ、問いただすように話しかけてくるレオナルド様。


「…いいえ、何でもないわ。昨日はなんだか眠くてたまらなかったのよ。後2ヶ月もすれば、私たちは結婚するのよ。それにもう私も16歳なんだし、1人で帰っても問題ないでしょう?」


「問題大ありだよ…そもそも君は、16歳とは思えない程、世間を知らない。いいかい?世の中には悪意を持った人間もいるんだよ。些細な事でもいいから、とにかく僕に報告して欲しい。分かったね?」


「もう、分かっているわ。しつこいわね」


メアリーの事が本当は好きなくせに、どうして私がお説教を受けなきゃいけないのよ。私は2人の幸せを考えて、身を切られる様な思いで決断したと言うのに!


そんな思いから、プイっと反対側を向いた。


「オリビアは本当に…」


ポツリと呟くレオナルド様。学院に着くと、すぐにメアリーの元へと向かった。


「おはよう、メアリー。あのね…大事な話があるの。今日の放課後、少しいいかしら?」


「おはよう、オリビア。ええ、大丈夫よ」


いつも通り、笑顔を向けてくれるメアリー。正直メアリーの顔を見ると、胸が張り裂けそうになる。それでも私は、大切な2人の為に、身を引くと決めたのだ。


大丈夫よ、きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせた。


そして放課後。


レオナルド様にはメアリーと2人でお茶をしたいからと伝え、2人きりにしてもらった。最初は渋っていたが、卒業したら頻繁に会えなくなるから!と頼み込むと、なんとか了承してくれたのだ。


「それで、急にどうしたの?」


少し不安そうなメアリー。


「昨日、メアリーとレオナルド様の話を聞いて、私、考えたの。私にとってレオナルド様は、もういなくてはならない大切な人よ。今だってその気持ちは変わらないわ。でも…」


感情が抑えきれずに、一気に涙が溢れ出る。


「私にとっては、メアリーもとても大切な友人なの…2人が私の存在のせいで苦しんでいるのならば…私はその事実が辛くてたまらない。だから…私、この国を出ようと思っているの。そうすれば、あなた達は結ばれる?」


「オリビア…あなた正気なの?」


「ええ、もちろんよ。私さえいなくなれば、あなた達は幸せになれるのでしょう?」


私なりに必死に考えて、生み出した結論なのだ。


「オリビア、あなたって子は、何て優しいのかしら?私たちの為に、ありがとう。それなら、私にも協力させて。あなたが不自由なく他国で暮らせるように、私が準備をするわ」


「ありがとう…メアリー」


「お礼を言うのは私の方よ。でも、ただ姿をくらますだけだと、きっと皆が必死にあなたを探すと思うの。だから、置手紙を残していったらどうかしら?そうね、“他に好きな人が出来ました、その人と生きていくため、他国へ向かいます。探さないで下さい“なんてどう?」


他に好きな人…

正直そんな嘘は付きたくない。私は身を切る様な思いで、この国を出るのだから…


「オリビア、あなたの事を探されたら結局私たちは結婚できないわ。お願い、私の言う通りにしてくれないかしら?」


必死に頼み込んでくるメアリー。


「分かったわ。それじゃあ、その作戦で行きましょう」


「それじゃあ、決行日は卒業式当日の夜という事でどうかしら?ほら、卒業式の日って、皆浮かれているでしょう?きっと王宮も抜け出しやすいと思うのよね。そうそう、王宮に隠し扉がある事は知っている?」


「いいえ、知らないわ。そんなものがあるの?」


「ええ、なぜか我が家に王宮の見取図があるのよ。そこに他国から襲われたときに脱出できるルートが記載されているの。当日はそのルートを使って、王宮の外に出て。王宮から脱出したら、私が馬車で拾うから。そしたらそのまま、国境を目指しましょう。ただ、時間との勝負ね。王都から一番近い国境は、馬車で半日かかるわ。でも、国境を越えてしまえばこっちのものよ。とにかくオリビアは、私のいう事に従ってもらえれば大丈夫だからね」


色々と話を進めるメアリー。


「それにしても、随分と色々と案が出てくるのね?もしかして、私が国を出る事を望んでいたの?」


つい疑問に思った事を、口走ってしまった。


「ごめんなさい、私は別にオリビアがこの国から出て行って欲しいと考えていた訳ではないのよ。ただ…オリビアが私たちの為に、自ら身を引いてくれたのが嬉しくて、つい」


申し訳なさそうに、メアリーが頭を下げた。


「私の方こそ、ごめんなさい。そういう意味じゃないの。私の為に、色々と考えてくれてありがとう」


慌ててそう伝えた。そうだわ。


「メアリー、決行までまだ約1ヶ月あるでしょう。私はこのまま、今まで通りレオナルド様に接してもいいのかしら?レオナルド様の気持ちを知ってしまった今、なんだか傍に居づらくて…」


今でもレオナルド様は大好きだ。でも、私をもう愛してくれていないと知っていて、レオナルド様といつも通り過ごすのは、けっこう辛いものがある。


「いっその事、レオナルド様に計画を話してしまったらどう?そうしたら、もっと私がスムーズに国から出られるかもしれないし…」


そう伝えたのだが…


「それは止めましょう。レオナルド様は人一倍お優しくて正義感が強いお方よ。自分の為にオリビアが国を出ると聞いたら、きっと引き留めると思うの!たとえ自分の気持ちを押し殺すことになったとしてもね」


確かにレオナルド様なら、私を引き留めてくれるだろう。でも…そうなったら愛し合う2人を結局引き離すことになってしまう。それだけは、イヤだわ。


「わかったわ、レオナルド様には黙っておくわね」


その後も私たちは、綿密に計画を立てた。その計画は私にとって、どれほど辛いものであっても、2人の為にも耐えるしかないのだ。

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