第12話 レオナルド様と友達になりました

「待って、お願い。私、この国に来て半年もの間、ずっとお友達も出来ずに寂しい思いをしていたの。だから、少しだけでいいから、私とお話をしましょう。お願い!」


少年の手を掴み、必死にお願いした。正直お友達は女の子がいいが、背に腹は代えられない。


「…君、オリビア王女だよね。君が男と一緒にいたら、君の父上が発狂すると思うけれど…」


この子は何を言っているのかしら?どうして私が男の子と一緒にいたら、お父様が発狂するの?まあいいわ。


「大丈夫よ、お父様は、今日は貴族会議に出ているから。あの人たちがお父様に話したりしない限り、バレないわ」


近くにいた騎士たちを、ジト目で睨んだ。さらに


「あっ、でも安心して。あの人たちもきっと、私がずっと友達が出来ない事を、可哀そうと思っているはずだから。お父様には内緒にしてくれるはずよ。ねっ」


近くにいた騎士たちに、笑顔を向ける。


「…わかりました。今回は陛下への報告は控えさせていただきます…」


騎士たちがため息を付きながら、了承してくれた。


「ほら、騎士たちも黙っていてくれるって。ね、いいでしょう?少しだけ」


さらに少年に詰め寄る。


「はぁ~、分かったよ…それじゃあ、少しだけだよ。それにしても、君は王女だろ。木に登るなんて、はしたない事は控えるべきだ」


「あら、私はずっと村で平民として生きて来たのよ。別に1人でいる時くらい、木登りをしたり、野山を駆け回ってもいいでしょう。皆の前では、きちんと王女を演じているのだから。それに、あの丘からみる街は、とても素敵なのよ。私、ずっとこのお城から出してもらえないから、せめてこの木の上から、街を見下ろしているの。そうだわ、一緒に眺めましょう」


少年の手を握り、木の方に歩く。


「だから、どうして君は、すぐに僕の手を握るんだ。そもそも女性が男性の手を握るなど、ふしだらだ!」


なぜか顔を赤くして怒る少年。


「あら、村では普通に皆手を握っていたわよ。そんなに怒る事ではないでしょう。減るもんじゃないのだから、少しくらいいいじゃない」


「君は本当に…王女らしくないね。まあいいよ…」


どうやら了承してくれたみたいだ。早速木に登る。


「いい、この枝をしっかり握って、ここに足をかけて登るのよ。あなた、見た感じひょろっこいけれど、登れる?手を貸してあげましょうか?」


ある程度木に登ったところで、少年に向かって手をのばしたのだが…


「これくらい、僕も登れるよ」


少しむっとした表情で、スルスルと登って来た少年。あら、意外と運動神経がいいのね。


「ほら、見て、とても綺麗でしょう。私、この景色が大好きなの。ねえ、あなたは街に出た事がある?私もいつか、街に出てみたいわ」


「出た事があるよ。街には色々なお店があるんだ。この国一の市場や娯楽施設もあるよ」


「まあ、それは本当?私も行きたいわ。街に」


何とかお父様を説得して、街に出ないと!お父様の過保護には、本当に困ったものよね。


「そういえば、あなたの名前、何て言うの?」


「僕…僕は…レオナルド」


「まあ、レオナルドと言うの?もしかして、ミシュラーノ公爵様のご子息様?」


「どうしてそれを?」


「この国に来るとき、飛行船の中でミシュラーノ公爵様が私に色々と話しかけてくれたの。その時、あなたの話も出たのよ。だから、覚えていたの。公爵様はお元気にしている?王宮に来てから、ほとんど姿をお見掛けする事もなくて」


「ああ、元気だよ。君の事も、随分と気に掛けている」


「まあ、そうなのね。嬉しいわ。私ね、公爵様にお願いしたのよ。レオナルド様とお友達になりたいって。こんな形であなたとお友達になれるなんて思わなかった」


嬉しくてついレオナルド様に向かってほほ笑んだ。


「君は、この国が嫌ではないのかい?今まで自由に母親と生きて来たのだろう。急に父親だと名乗る男が現れ、そして有無も言わさず連れてこられた。王女になる為の勉強を叩き込まれ、母親とも引き離されて…」


「どうして嫌なの?私、この国に来られて幸せよ。亡くなったと思っていたお父様が生きていて、おじい様やおばあ様にも会えたし。王女になる為の勉強だって、嫌じゃないわ。皆優しいし。確かに村の皆にきちんとお別れを言えなかったのは、少し心残りだけれど…」


「あっ、それとお母様に会えないのは確かに寂しいけれど…ねえ、知っている?私のお父様、とても嫉妬深いそうなの。これはね、私の推測なのだけれど、お父様はお母様が自分の元を去ってしまって、完全に病んでしまったの。それで、お母様を閉じ込めているのではないかと思うのよね。嫉妬に狂った男は、何をするか分からないじゃない!」


よく読んでいる恋愛小説でも、ヒロインがヒーローに監禁されている。おばあ様も、お父様は嫉妬深いと言っていたし。


それに本当に病気なら、きっと私にももっと合わせてくれると思うのよね。お父様ったら、きっと私にまで嫉妬しているのね。まさか小説の世界のヒーローが、こんな身近にいたなんて。もっとお父様とお母様の話を聞きたいわ。でも…誰も教えてくれないのよね。


「君は父親が母親を閉じ込めているのに、どうしてそんな笑って話せるんだい?」


「あら、だって素敵じゃない。私ね、恋愛小説が好きで、よくそういう嫉妬深い男性のお話を読んでいるの。まさか身近に小説のヒーローみたいな男性がいるなんて、夢みたいだと思わない?きっとお父様は、お母様が好きで好きでたまらないのね。私は9年もお母様を独り占めにしていたのだから、少しはお父様に譲ってあげてもいいかなって、最近は思う様にしているの」


お父様にお母様を譲ってあげるなんて、私って大人でしょう?そんな思いで伝えたのだが…


「アハハハ、君って変わっているね。そうか、君は嫉妬深くて狂った男が好きなんだね…覚えておくよ…」


急に笑い出したかと思ったら、なぜかニヤリと笑ったレオナルド様。今までずっと硬い表情をしていたレオナルド様が笑ってくれた。それが嬉しくて、私もつい微笑んでしまった。

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