第11話 少年に出会いました

ペリオリズモス王国に来て、早半年。すっかりこの生活にも慣れた。ただ…相変わらずお母様は、ほとんど姿を現さない。


それでも、先日お父様とお母様が、正式に結婚した。本来であれば、国を挙げて盛大なパレードを行う予定なのだが、お母様の体調があまり良くないという事で、少しだけ民に姿を見せたのち、すぐに部屋に戻って行ってしまった。


ちなみに私もこのタイミングで、皆に紹介された。メイドたちの噂話を盗み聞きした話によると、“シャリー様が見つかったが、既に子供がいた。でもシャリー様以外と結婚する気がない陛下が、シャリー様の子供を自分の子供として育てる事にしたらしい”と巷では噂になっていたらしい。


その為、急遽私もお披露目されることになったそうだ。私の姿を一目見た貴族や平民たちは、「陛下の血を引く王女様だ」と、大歓声が上がっていた。どうやら私の赤い瞳が、その証という事を皆が知っているらしい。


確かにお父様やおじい様以外に、赤い瞳の人なんて見た事ないものね。赤い瞳は、相当珍しい様だ。


すっかり私の事も世間に広がったのだが、未だに王宮から出る事は許されていない。お父様曰く


「オリビアは唯一私の血を引く、大切な子だ。万が一誘拐でもされたら大変だ。いいかい?まだしばらくは、王宮から出てはいけないよ。わかったね!」


と、強く言われているのだ。確かにこの王宮は広い。でも、せっかくペリオリズモス王国に来たのだから、街に出たいわ。そう思い、一度王宮から抜け出そうとしたのだが、護衛騎士たちに阻まれてしまった。


さらに勝手に抜け出そうとしたことがお父様にまで報告され、ものすごく怒られた。お父様、怒ると結構怖いのよね…


王宮を抜け出そうとした日と翌日は、罰として小さな部屋に閉じ込められた。分厚い鍵が付いた部屋だ。そして、私が閉じ込められた部屋には、お父様以外入れなくされたのだ。もちろん、お勉強もお休み。大好きな小説も読ませてもらえず、ひたすら反省させられた。


そしてそのまた翌日、お父様の前で二度と勝手に王宮を抜け出そうとしないという約束をして、やっと出してもらえた。


あんな薄暗くて退屈な部屋、二度と御免だ。そう思い、今は比較的いい子にしている。


それでも私はずっと村で野山を駆け回りながら育った。読書も好きだが、動く事も大好きだ。最初はいい子にしなきゃって思って、勉強も頑張って来た。でも今は、やっぱり自由に生きたい。


そんな思いから、今日も王宮にある丘へとやって来た。近くで護衛騎士が睨んでいる。さっきうまく撒いたと思ったのに、もう私を見つけたのね。本当に、優秀な騎士たちだわ。


ただ、騎士たちも私に必要以上に絡んでくることはない。遠くから見守っている感じだ。


丘まで来ると、大きな木が1本生えている。その木を、スルスルと登る。木登りは得意だ。すかさず護衛騎士たちが飛んできた。


「殿下、危ないので降りて来てください。落ちて怪我でもされたら、どうなさるおつもりですか!」


下で騎士たちが叫んでいる。毎度毎度、ご苦労な事だ。


「いつも登っているから大丈夫よ。私、エレフセリア王国にいた時は、誰よりも木登りが上手だったのよ」


さらに上まで登って行く。この木の上に登ると、街が一望できるのだ。その景色が、最高に美しい。


この国に来て、もう半年も経つのね。アリーや村の人たち、元気にしているかしら?最初はお姫様になれるって嬉しかったけれど、王女ってとても窮屈なのよね。それに、未だにお友達もいないし…


私、このまま一生王宮で友達も出来ず、1人寂しく暮らすのかしら?そう思ったら、なんだか涙が出てきた。


その時だった。


ふと護衛騎士の方を見ると、後ろの方に見た事のない少年が口をポカリと開けて立っていたのだ。美しい金髪に、青い瞳をした少年だ。見たところ、私と同じくらいの歳の様だ。


もしかして、お友達になれるかも!

そう思い、急いで木から降りようとする。でも、何を思ったのか、少年はクルリと後ろを向くと、スタスタと歩き出した。


「あっ、待って!」


急いで木の降り、彼を追いかける。


「ねえ、待ってったら」


やっと捕まえた。彼の手をとっさに握った。この子、意外と足が速いのね。


「れ…令嬢が男の手を軽々しく握るものではない」


クルリとこっちを向いた少年が、なぜか頬を赤らめ、そう叫んだ。


「あら、あなたが逃げるからでしょう。それにしても、王宮に私と同じくらいの子がいるなんて、珍しいわね。あなた、お名前は?どうしてここにいるの?よかったら、私とお友達になってくれない?」


同じくらいの歳の子がいる事が嬉しくて、一気に話しかけた。


「僕は父上に付いて来ただけです。それから、あなたとは友達になるつもりはありません。それでは、失礼いたします」


少年がぺこりと頭を下げ、私の元を去ろうとする。やっと見つけた同じ年頃の人間、逃がしてなるものか!

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