第6話 ペリオリズモス王国に向かいます

食後、3人で馬車に乗り込んだ。きっと今から村に戻って、荷物をまとめに行くのだろう。そう思っていたのだが…


なぜか小高い丘の上にやって来た。そこには、見た事のない大きな物体が。あれは一体なにかしら?


「お父様、あの物体は一体何?村に戻って荷造りをするのでは?」


「村の荷物は、既に昨日残った家臣たちがまとめたよ。この機体はね、飛行船というんだよ。空飛ぶ機械だ。これに乗ってペリオリズモス王国に帰るんだよ」


「え!空を飛ぶの?馬車で帰るのではなくって?」


「馬車だと、1週間はかかってしまうからね。さすがにそんなに国を空ける訳にはいかないよ。飛行船だと、半日で帰れるんだ。今日の夜には、ペリオリズモス王国に着くんだよ」


1週間かかるところが、半日で!それはすごいわ。でも、こんな物体が空を飛ぶなんて。それに、村にはもう戻れないのね。もしかしてアリーは、もう私が村に戻ってこないとわかっていて、あんなにも寂しそうな顔をしていたのかしら?


それならそうと、早く言って欲しかったわ。もっときちんと、お別れを言いたかった。


私がシュンとしていたからか


「どうしたんだい?オリビア。もしかして、飛行船が怖いのかい?大丈夫だよ。お父様がずっと傍にいてあげるからね。さあ、乗り込もうか」


私を抱きかかえると、お父様が飛行船と呼ばれる物体に向かって歩き始めた。すると、金色の髪をした、これまた綺麗な男の人が待っていた。見た感じ、お父様と同じくらいの歳の様だ。


「陛下、シャリー殿、オリビア様、お待ちしておりました。さあ、どうぞこちらへ」


金髪の男性が案内してくれる。


「あなた様は、ミシュラーノ公爵家のレックス様ですね。セリーヌは元気にしておりますか?」


お母様が急に男性に話しかけた。


「ええ、セリーヌは元気にしておりますよ。あなた様が見つかったと聞いて、本当に喜んでおりました」


「そう、それはよかったですわ。セリーヌには、随分と心配をかけてしまったのでしょうね…」


どうやらこの男性は公爵家の人間で、お母様の知り合いの様だ。セリーヌ様という人は、誰だろう?


「おい、レックス。シャリーに絡まないでくれ!シャリー、私以外の男と気安く話すのは止めてくれ!嫉妬で気が狂いそうになる!」


すかさずお母様を抱きしめたのは、お父様だ。どうやらお父様は、とても嫉妬深い様だ。これは私の好きな小説のヒーローの様なタイプね。いいわよ、お父様。もっと嫉妬して!


ついニヤニヤとお父様とお母様を見つめてしまう。


「陛下、無駄な嫉妬はお止めください。私には最愛の妻、セリーヌがおりますので。さあ、時間がありません。早く飛行船へ」


金髪の男性…レックス様が私たちを飛行船に押し込んだ。飛行船というからどういうものかと思ったけれど、どうやらお家の様な作りになっている様だ。いくつもの部屋がある。


せっかくなので、飛行船の中を探検しようと思ったのだが、お父様の膝の上に座らされてしまった。


「オリビア、一応この飛行船は、あまり揺れない様に設計されているが、離着陸の時は少し揺れる。ある程度高度が保たれるまで、ここにいなさい」


「わかったわ。それにしても、本当にこの物体、空を飛べるの?」


「ああ、飛べるよ。ほら、窓の外を見てごらん」


お父様が言った通り、ふわりと物体が浮き上がり、どんどん上昇していく。


「本当に空を飛んだわ!凄いわね。どんどん街が小さくなっていくわ」


窓のすぐ横には、雲も見える。本当に空を飛んでいるのね、まるで鳥になったみたい。興奮して、つい窓に張り付いてしまう。しばらく景色を見ていると


「オリビア、もう大丈夫だよ。部屋を探検して来てもいいぞ」


「本当?それじゃあ、色々と見てくるわね」


お父様から許可が下りたので、早速飛行船の中を見て回る。飛行船は広くて、トイレとお風呂も完備されていた。さらに厨房もある。私がお母様と一緒に住んでいた家よりも、ずっと大きい。本当にこれが飛行船の中だなんて、信じられないわ。


一通り見学を終えると、クリアが紅茶とお菓子を準備してくれた。このお菓子、本当に美味しいわ。でもやっぱり、お母様が作ってくれるマドレーヌが一番おいしいわね。


「おや、オリビア様はここにいらしたのですね。ご挨拶が遅くなって申し訳ございません。私はレックス・ミシュラーノと申します。どうぞお見知りおきを」


にっこり微笑んで、私の隣に座ったレックス様。


「オリビア様は本当に陛下に似ていらっしゃいますね。あっ、でも顔の作りはシャリー様の若い頃にそっくりです」


「レックス様は、お母様の若い頃を知っているのですか?」


「ええ、知っていますよ。私の妻は、シャリー様の幼馴染で親友でしたので。陛下と私も、昔からの友人です」


「まあ、そうなのですね。それじゃあ、どうしてお母様はお父様を置いて国を出たのですか?アイ…何とかという女の人が、お母様とお父様の恋を邪魔したのですか?私、そう言う話が大好きなのです。詳しく教えて下さい!」


鼻息荒く、レックス様に詰め寄った。


「さすがに私の口からは、申し上げられません。ただ一つ言えることは、陛下は誰よりもあなた様のお母様を愛していらっしゃるという事です。それはもう…病的に…」


なぜか遠い目をするレックス様。一体どういう事かしら?


「そういえば、オリビア様は9歳でしたね。私の息子も9歳で同い年なんですよ。レオナルドと申します」


「まあ、レックス様にも息子さんがいるのですか?お友達になれると嬉しいですわ」


「ぜひ!ただ…陛下が会わせてくれるかどうか…あなた様の事を既に溺愛している様ですので…」


再び遠い目をしているレックス様。


「レックス様?」


「申し訳ございません。何でもありませんので、気にしないで下さい。それでオリビア様は、今までどんな生活を送って来たのですか?」


優しい眼差しで、レックス様がそう聞いて来た。私は今までの事を、色々とレックス様に話した。真剣な表情で聞いてくれるので、つい話過ぎてしまった。


レックス様からは、ペリオリズモス王国について色々と教えてもらった。レックス様は本当に話しやすくて、つい話に花を咲かせてしまったのだった。

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