第60話 楽しい思い出を作りたいのに
昼食の後、ホテルのロビーに集合し、各自参加するツアーの前に集まる。思ったよりも皆何かに参加したかった様で、ほとんどの人が、何らかのツアーに申し込んでいた。
ちなみに私が参加するツアーは、真珠やサンゴなどの加工工場&アクセサリー作り体験だ。レオナルド様も同じツアーに参加しようとしていたが、何分参加者は皆令嬢だったため、必死に頼んで別のツアーにしてもらった。
最後まで“オリビアを1人にするのは心配だ!”と言って一緒に参加しようとしていたが、結局クリス様にうまく丸め込まれ、船で漁に出る体験にした様だ。
「オリビア、いいかい?令嬢ばかリだからと言って安心してはいけないよ。もしかしたら、誘拐犯が紛れ込んでいるかもしれない!あぁ、やっぱり心配だ」
レオナルド様が私の隣で騒いでいる。
「レオナルド、いい加減にしろ!それじゃあ俺たちは行くから」
クリス様に連れられ、こちらをチラチラ見ながら去っていくレオナルド様。なんだか最近、お父様の口調に似て来た気がするのだが、気のせいかしら…
「レオナルド様は、本当にオリビアが大好きなのね…」
一部始終を見ていたメアリーがそう言って笑っていた。でも、なぜだろう。なんだか悲しそうに見えるのは、私だけだろうか…
「さあ、私たちも行きましょう。私、加工工場を見るの、初めてなの」
私の手を引き、歩き出したメアリー。他にも20人程度の令嬢たちと引率の先生と一緒に、加工工場へと向かう。
女性たちが丁寧に作業を行っている。どうやら貝殻などの加工も行っている様で、こっちでは丁寧に磨いていた。その隣では真珠などを大きさ別に選別を行っている様だ。
一通り見学をした後は、アクセサリーを作る体験をさせてもらった。真珠を始め、サンゴや貝殻など、色々なアイテムが並んでいる。
せっかくなので、レオナルド様と私の分を作ろう。そうね、ネックレスがいいわ。この真珠、本当にキラキラしていて綺麗だ。間にサンゴを入れても綺麗よね。
どうせなら同じデザインがいい。色合いを考えながら、何度も通しては外し、通しては外しを繰り返していく。
2時間かかり、なんとか完成した。
「オリビアのネックレス、とても素敵ね。もしかして、1つはレオナルド様にあげるの?」
「ありがとう、メアリーのも素敵よ。ええ、レオナルド様にはいつも貰ってばかりだから、私も何かあげたくて…」
「あら、素敵じゃない。きっとレオナルド様、喜んでくれると思うわ。そろそろホテルに戻る時間の様ね。この後はパーティーがあるから、急いで戻りましょう」
優しく微笑むメアリー。さっき悲しそうな顔をしていた様な気がしたけれど、きっと私の気のせいだったのね。
メアリーと手を繋ぎ、他の令嬢たちも一緒にホテルに戻る。すると
「オリビア、よかった。帰ってくるのが遅かったから、心配していたんだ」
レオナルド様が、ギューッと抱きしめてくれた。私の事を待っていてくれたのね。嬉しいわ。
「わざわざ待っていてくれたのね。そうだわ、これ。私が作ったネックレスなの。私とお揃いよ」
早速作りたてほやほやのネックレスを渡した。
「これを僕にかい。オリビアが作ってくれたネックレスか!こんなに嬉しいプレゼントはない。僕の宝物にするよ!そうだ、オリビアが僕の首に付けてくれるかい?」
嬉しそうにレオナルド様が後ろを向いた。つけやすい様に、少ししゃがんでくれる。そっとレオナルド様の首にネックレスを付けた。あまりレオナルド様の頭ってみた事がなかったけれど、サラサラの美しい金髪をしているのね。
「ありがとう、オリビア。本当に嬉しいよ」
首に付いたネックレスに触れながら、本当に嬉しそうに笑ってくれる。その顔を見た時、私も嬉しくてつい頬が緩んだ。
「そんなに喜んで貰えてよかったわ。それ作るの、結構苦労したのよ」
「そうだったんだね。僕の為に、ありがとう」
ギュッとレオナルド様が抱きしめてくれる。
「レオナルド、オリビア殿下もそろそろ着替えないと間に合わないぞ」
あきれ顔のクリス様に言われ、急いで部屋へと戻った。残念ながら、レオナルド様とは建屋が違う。部屋に戻ると、クリアが待ち構えていた。そして、ドレスに着替えさせてくれる。
ちなみに部屋は1人部屋、メイドを1人だけ連れてきていい事になっているのだ。この国に来る前から私のお世話をしてくれているクリアが、今回来てくれた。やっぱり彼女が一番信頼できるのだ。
「出来ましたよ。今日の殿下も、とてもお美しいですわ。さあ、そろそろお時間です。気を付けて行ってらっしゃいませ」
「いつもありがとう。クリア。行ってくるわね」
クリアに見送られ、今日の舞台でもあるホールへと向かう。きっとレオナルド様がどこかで待っているはずだけれど、どこで待っているのかしら?
キョロキョロとしながら、ホールを目指す。するとホールの入り口に、レオナルド様の姿が。
「レオ…」
声を掛けようとした瞬間、レオナルド様がメアリーと楽しそうに話しをしている姿が目に入る。メアリーは聡明で美しい。ああやってしていると、2人はお似合いだ…
そんな事は考えたくはないのに、どうしても考えてしまう。それによく見ると、メアリーのドレス、レオナルド様の瞳の色でもある、青色だわ…
それってもしかして…
その場から動く事が出来ず、ただ2人を見つめる事しかできない。と、次の瞬間、レオナルド様が私に気が付き、走ってこっちにやって来た。
「オリビア、随分と遅かったね。メアリー嬢ももう来ているよ。さあ、行こうか」
いつも通りの笑顔を向けてくれるレオナルド様。でも…
お願い、メアリーの名前を呼ばないで…
レオナルド様は、私の婚約者なのに…
メアリーに対する醜い嫉妬心が出てしまう。
「オリビア、大丈夫?あなた少し顔色が悪いわよ」
私達の元にやって来たメアリーが、心配そうに私の顔を覗き込んだ。こんなにも優しい友人に、醜い嫉妬心を向けてしまうなんて…
とにかく、平然を装わないと。
「何でもないわ。さあ、今日は目いっぱい楽しみましょう」
必死に笑顔を作り、3人でホールに入って行く。正直言って、この後の事はあまりよく覚えていない。ただレオナルド様とメアリーが2人きりにならない様に、必死に2人の様子を伺っていた。
とても楽しみにしていた宿泊研修なのに、私ったら一体何をしているのかしら…
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