第80話 それでも私は幸せです
公爵家に来てから、1ヶ月が過ぎようとしていた。鬼のレオナルド様のせいで、私はこの1ヶ月、本当に辛かった。毎日毎日ただひたすら狭い部屋で反省文とレオナルド様をどれほど愛しているかを書かされ続けた。
もちろん、それ以外何かをさせてもらえる事はない。無駄にある小さな部屋から太陽の光が差し込むと、あぁ…こんなにいい天気なのに、私は外に出る事すら許されないのね…太陽の光を浴びて、ティータイムでも楽しみたいわ。と、何度思った事か…
毎日毎日本当に辛くて、何度逃げ出そうと思ったか…もちろん、思っただけよ。だって、どう考えても逃げ出せる訳がないのですもの…
それに万が一逃げ出そうとしたことがレオナルド様にバレたら…そう考えただけで、恐怖で震えるのだ。
そんな地獄の様は日々に耐え、今日は待ちに待った私たちの結婚式の日だ。久しぶりに会うメイドたち。王宮から私の為に、専属メイドたちも来てくれている。どうやら私の輿入れと同時に、公爵家のメイドになったらしい。
「殿下…いいえ、奥様、お久しぶりです。少しおやつれになったのではございませんか?」
「ああ…皆、会いたかったわ…」
嬉しくてメイドたちに抱き着いた。きっとメイドたちは、私がレオナルド様から、どんな扱いを受けていたのか知らないのだろう。
「さあ、奥様。まずは湯あみから行いましょう」
久しぶりにメイドに洗ってもらう、湯あみ、楽しみだわ。そう思ったのだが…
そう、私の体には、あちらこちらに、レオナルド様からの愛の証が…さすがのメイドたちも、苦笑いしつつも特に触れることなく体を洗いあげてくれた。
もう…レオナルド様ったら、私は恥ずかしくて穴があったら入りたいわ…
気を取り直して、綺麗に化粧をし、ウエディングドレスを着せてもらう。私のウエディングドレスは、ベールも後ろもとても長いタイプのものにした。何度もデザイナーとお母様、お義母様と相談しながら作ってもらったドレス。このドレスも着る事がないと思っていたけれど、今日着られて本当に幸せだわ。
「さあ、奥様、着替えが終わりましたよ。本当にお美しいですわ」
メイドたちがうっとりを私を見つめている。相変わらずお世辞が上手な人たちだ。
「まあ、オリビアちゃん、やっぱりそのドレス、とても素敵よ」
「本当ね。それにしてもあなた、またやつれたのではなくって?」
お母様とお義母様が私の様子を見に来てくれた。どうやら私、やつれている様だ。こんな姿を見たら、お父様は激怒しないかしら?
「さあ、皆が待っているわ。行きましょう」
お母様たちにエスコートされ、部屋から出ると、レオナルド様が待っていた。こちらも真っ白なタキシードに身を包んでいて、とても素敵だ。
「僕の可愛いオリビア。そのドレス、よく似合っているね。さあ、行こうか」
お母様たちから私を奪い取ると、ゆっくりと歩き出した。何分ドレスの後ろが長いため、メイドたちが持ってくれているのだが、それでも歩きにくい。
ちなみに結婚式は、公爵家にある教会で行われる。そしてその後、広い大ホールで、結婚披露パーティーが行われるのだ。
ちなみに教会は庭の奥にある為、約1ヶ月ぶりに外に出る私。
「あぁ…なんて太陽の光が気持ちいいのかしら…ずっとここにいたいくらいだわ…」
恋焦がれた太陽の光!こんなにも温かくて柔らかな光だったのね…
「オリビア、君の罰は終わっていない事を、忘れてはいないよね。さあ、行こうか」
恐ろしい事を呟くレオナルド様。本当にこの人は…
教会の控室に着くと、お父様とシャルル、公爵様が待っていた。
「あぁ、私の可愛いオリビア!可哀そうに、こんなにやつれてしまって!レオナルド、ちゃんとオリビアに食事を与えていたのか?やつれているではないか!やっぱり今日の結婚式は中止だ!王宮に連れて帰る」
案の定、お父様が激怒した。でも、この期に及んで中止は無理だろう。
「陛下、バカな事を言うのはやめて下さい。僕は陛下に許可を取った事しか、オリビアにはしていません!元々オリビアは食が細いんですよ。本当に、言いがかりはよしてほしいものだ」
「本当だな!本当にオリビアに何もない部屋で反省文を書かせること以外させていないな!」
「ええ、もちろんです。そもそも陛下が教えてくれたのではないですか。オリビアには、このお仕置きが一番効果的だって!」
何ですって!お父様が!お父様め、いらない情報をよくもレオナルド様に!
お父様をジト目で睨んだ。
「イヤ…私は可愛いオリビアに暴力を振るわれては大変だと思ったから、提案しただけだ。そうだ、オリビア。今日のオリビアは一段と美しいよ。まるで若い頃のシャリーを見ている様だ」
「あねうえ、とってもきれいだよ」
お父様が慌ててフォローしている。それに、シャルルも私の方にやって来て、ギュッと抱き着いてきてくれたし。まあ、いいか。
「皆様、そろそろお時間です。ご準備を」
「それじゃあ、私たちは先に教会に行っているからね」
「あぁ、オリビア、本当に結婚してしまうのかい?お父様は寂しいよ」
「ほら、あなた。国王がメソメソ泣かないの!」
既に泣き出してしまったお父様をお母様が連れて行った。お父様って、あんな人だったかしら?
「僕たちも行こうか」
「はい」
2人で手を繋いで、教会の入口へとやって来た。そして、合図とともに、2人並んでゆっくりと入場する。
沢山の人が、拍手で迎えてくれた。相変わらずお父様は号泣しているわね…
あら?おじい様とおばあ様も来てくれたんだわ。嬉しいわね。
あの人たちは、ジュノーズ侯爵夫妻だわ。来てくださったのね。メアリー、元気かしら?
沢山の人に祝福されながら、バージンロードを歩いて行く。神父様の前まで来ると、レオナルド様と一緒に、契約書にサインをした。
「ここにレオナルド・ミシュラーノとオリビア・ディア・ペリオリズモスを夫婦と認める」
神父様の言葉と同時に、大きな拍手が沸き起こった。あっという間の式が終わり、私たちの退場と共に、皆がフラワーシャワーをしてくれた。
次は結婚披露パーティーだ。パーティーが始まると同時にまず向かったのは…
「ジュノーズ侯爵様、夫人、今日は来てくださり、ありがとうございます。それで、メアリーは…」
そう、どうしてもメアリーの事が気になったのだ。
「オリビア殿下…いいえ、ミシュラーノ公爵令息夫人様、まずはご結婚おめでとうございます。メアリーの事、気に掛けて下さり、ありがとうございます。あの子もさぞ夫人のウエディングドレス姿を見たかったことでしょう。でも、今は一応罰を受けている期間ですので。ただ、メアリーから手紙を預かって参りました。どうか読んでやってください」
ジュノーズ侯爵夫人が私に手紙を渡してくれた。メアリーからの手紙、早速読もうとしたのだが、すぐにレオナルド様に奪われてしまった。
「レオナルド様。それは私の…」
「彼女からの手紙は、僕が先にチェックすると言っただろう!」
そう強く言われてしまったら、何も言い返せない。ジュノーズ侯爵夫人もさすがに苦笑いだ。
早速読み始めたレオナルド様。一体何が書かれているのかしら?まだかまだかと待っていると…
「…まあ、いいだろう」
そう言って私に手紙を渡してくれたのだ。早速手紙を読む。
どうやらおじい様やおばあ様と楽しくやっているみたいね。それに、モレッド侯爵家を継ぐだなんて、メアリーらしいわ。しっかりレオナルド様にも意見しているし。あの子ったら…
「メアリーは、幸せに暮らしているのですね」
「ええ…近々モレッド侯爵家の養子に入る事も決まっておりますの…私の父も母も、メアリーを本当に可愛がっている様でして。もしかしたらもう、王都には戻ってこないかもしれませんね…」
少し悲しそうに呟く夫人。
「夫人、悲しがる必要はありませんわ。それなら、私たちがメアリーに会いに行けばいいのですもの。ね、レオナルド様」
「何を言っているんだ!そんな事、許すわけないだろう!オリビアは自分の立場を分かっているのかい?」
すかさず怒るレオナルド様。それでもきっと、いつかレオナルド様は私をメアリーの元に連れて行ってくれるだろう。だって彼は、心優しいミシュラーノ公爵様の息子なのですもの。
「レオナルド様、私はレオナルド様が大好きよ。もう二度と離れたりしないわ。だから、安心して!」
「そんな嬉しい言葉を言っても、僕は許さないよ。君は一生、僕に囚われる事になる。ずっとね…」
危険な微笑を浮かべるレオナルド様。
それでもやっぱり私は、レオナルド様が大好きだ。それになんだかんだ言って、私は監禁自体は好きなのよね。だってそれだけ、私を愛してくれている証拠でしょ?
レオナルド様、これからもずっと私を捕まえていてくださいね。
おしまい
~あとがき~
最終話、少し長くなってしまいましたが、これにて完結です。
当初の予定では、メアリーは最後まで悪役にするつもりだったのですが…
書いているうちに、皆ハッピーエンドにしたいなっと思って、急遽変更しました。
ちなみに、メアリーからの手紙の内容と、オリビアの結婚式までの様子を番外編としてアップ予定です。
最後までお読みいただき、ありがとうございますm(__)m
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