2022/12/20 『ツォルキン:マヤ神聖歴』

「今日の『ツォルキン』ていか・・さんの持ち込みでしたよね」


 もういつものになりつつあるボドゲ会の帰り道、カドさんにそう尋ねられて俺は頷いた。


「そうです。あの歯車が好きで」

「あ、わかります。あの仕掛け、すごく面白かったです」


 カドさんはボドゲを遊んでるときと同じ笑顔になった。自分の好きなボドゲをこうやって面白がってもらえるのは、やっぱり嬉しいことだ。


「歯車、インパクトあるだけじゃなくて、あの動きを読んで何手先まで考える感じというか」


 興奮した面持ちで、カドさんが語る。

 話題に出ている通りに『ツォルキン:マヤ神聖歴』というゲームは、ゲームボード上に大きな歯車が付いている。一つの大きな歯車に噛み合う五つの小さな歯車。

 その大きな歯車が暦──つまりはゲームの進行状況を表している。小さな五つの歯車に自分のワーカーを置いて、大きな歯車が動いて日が進むと小さな歯車も動く。そして、歯車が進んだ先の行動アクションを実行できる。

 つまり、歯車がどう動くのか、自分のやりたい行動アクションは何手先なのか、暦が進むまでに何をしなければいけないのか、そうやって何手も先を見通して動かないといけないゲーム。

 納得の重量級。遊び終わった後は脳みその疲労感が心地良い。

 そんな気持ちで、俺は深く頷いた。


「わかります」

「ボドゲ部だと今はどうしても軽めのゲームが中心なので、こうやってボドゲ会で重ゲー遊べるのめちゃくちゃ嬉しいんですよね」


 ボドゲ部という言葉を聞いて、俺は隣を歩くカドさんを見上げた。

 カドさんは高校に入ってボドゲ部を作った。そして、部員として俺の妹の瑠々るるを誘った。俺と瑠々が兄妹だというのは、カドさんは何も知らなくてただの偶然だったらしいけど。

 俺が気になっていたのは、どうして瑠々だったのかということだ。

 瑠々は基本的にゲーム的なものが嫌いだ。これまでずっと、ゲームから距離を取っていた。だから普通に考えれば、ボドゲ部に誘うには不向き、不自然。

 ただ、瑠々にはボードゲームの中に入ってしまうという体質がある。俺から見たら羨ましくもある体質。ゲーム嫌いの理由もその体質のせい。

 その体質のことをカドさんはそもそも知っていたんじゃないかと、ふと、そう思い付いた。その体質でボドゲを遊びたいから誘った、という理由は自然に思えた。

 これで不自然さは一つ解決クリア。では他の不自然さは?

 例えば、ボドゲを遊びたいと言う割に瑠々以外に増やさない部員。それから、瑠々のために用意しているらしいボドゲ。ボドゲを遊ぶだけでなく二人で出かけたりしていること。

 それってつまり──。


「変なこと聞くけど、カドさんと瑠々って付き合ってるんです?」

「……え?」


 俺の質問に、カドさんは立ち止まってしまった。二歩進んでから俺も立ち止まって、カドさんを振り返る。カドさんはびっくりした顔で俺をじっと見ていた。

 目が合うと、急に顔を背けられた。その耳が、赤くなっているのが見えた。


「ち、違います! 全然っ! そういうのじゃなくて!」


 カドさんがあまりに慌てるので、なんだか俺の心は逆に静かになってゆく。違うなら違うで、別に普通に否定してくれたら良いんだけど、と思っている間にも、カドさんの言葉は勢いよく続いてゆく。


「全然そういうことは考えてなくて、その、俺はただ大須だいすさんと楽しく遊べたら良いなと思ってるだけで、それはあの、体質のこともあるんですけど、でもそれだけじゃなくて楽しく遊びたいなって、あの、ボドゲを! ボドゲを遊べたらそれで良いんです俺は!」

「え、あ、はい」


 縮められたバネが飛び跳ねるような反応に、俺は困惑を取り繕うこともできないまま、とりあえず頷いておいた。

 ひょっとしたら何かこう、面倒くさい状況になってたりするのだろうか。と、俺はそのときに気付いたのだった。




『ツォルキン:マヤ神聖歴』


・プレイ人数: 2〜4人

・参考年齢: 13歳以上

・プレイ時間: 90〜120分




 game 7よりも後のことです。

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