2022/12/08 『ブーメラン・オーストラリア』

「また聞かれたよ」


 わたしの声に、瑠々るるちゃんは顔を持ち上げて、首を傾けた。


「聞かれたって?」

かどくんだっけ、ボドゲ部の。瑠々ちゃんは彼と付き合ってるんじゃないかって」


 そう、瑠々ちゃんがかど八降やつふるという男子とボードゲームを遊ぶようになってから、時々わたしのところに噂の真相を尋ねにくる生徒が出てきた。

 まあつまり、二人は付き合ってるんじゃないのか、と、そういうことだ。

 わたしは瑠々ちゃんと時折、放課後にこうやって寄り道する程度には仲が良い。だから、何か知っているだろうと思われているらしい。

 それでまあ、二人についてのそういう噂話も自然と聞くことになっていた。噂話なんて、嘘か本当かわからない。それはわかってる。

 それでも何回も聞いていると、もし本当のことなら瑠々ちゃんの口から直接聞きたいな、なんて思ったりもする。

 それで夏休みが終わって、期間限定のカシスシェイク。隣でそのストローを咥える瑠々ちゃんを見た。

 瑠々ちゃんはびっくりしたように目を丸く見開いて、慌てたように首を振った。


「ない。全然そんなんじゃないから。角くんとは、部活で一緒にいるだけだし」


 瑠々ちゃんはいつもそう言う。でも、とわたしは言葉を続けた。


「休みの日に、一緒に出かけたって本当?」


 その言葉に、瑠々ちゃんは少しだけぽかんとした顔をして、それから小さく「あ」と言った。そして、眉を寄せてわたしの顔を見上げる。


「一緒に出かけたって言うか、それも部活動の一環? だと思う」


 瑠々ちゃんの言葉に、わたしも眉を寄せてしまった。


「ボードゲームを遊ぶ部活じゃないの?」

「そうなんだけど。その、ボードゲームを遊んで、出てきた場所に行ったりとか。この前は、オーストラリアが舞台のゲームでカンガルーが出てきたから、カンガルーを見に行こうって言われて」

「それでカンガルーを見に行ったってこと?」

「そう」


 瑠々ちゃんは大真面目な顔で頷いたけど、わたしにはちょっと意味がわからなかった。

 カンガルーが出てくるゲームを遊んでカンガルーを見にいくのも部活? ボードゲームってそういうものなんだろうか。

 ひょっとしてわたしは何か誤魔化されてる? なんてことも思ったけど、それにしては瑠々ちゃんは真面目な顔をしている。

 それに、瑠々ちゃんがそういう誤魔化しをするとは考えたくない。もし瑠々ちゃんに誤魔化されているんだとしたら、それはちょっと悲しいし寂しいな。

 わたしが一人悩んでいる間に、瑠々ちゃんはまた言葉を続けた。


「オーストラリアの観光地の中から旅行の行き先を選ぶゲームでね。それが点数になって、最後は負けちゃったんだけど、でも、本当に旅行に行ったみたいに楽しくて。だからだと思う」

「何が?」

「ゲームが楽しかったから、本物が見たくなったんじゃないかな、角くんは」


 そう言われると、少しわかる気がする。まあでも、だからって瑠々ちゃんを誘う理由というのは、納得いかない部分もあるのだけど。

 本物が見たいなら一人で行けば良い。なんだってわざわざ瑠々ちゃんを誘うのか。その角くんの意図はどこにあるのか。

 ストローに口をつけて、カシスシェイクの冷たさを飲み込みながら、どう考えてもそうとしか思えないんだけど、と考える。


「瑠々ちゃんは、それで、楽しかったの? その、カンガルー」

「え、わたし?」


 瑠々ちゃんが首を傾ける。きょとんと瞬きをして、それから小さく笑って頷いた。


「楽しかったよ。カンガルー、可愛かったし。あ、写真見る?」


 そう言って、瑠々ちゃんはスマホを取り出した。

 本人が楽しいなら、まあ良いか。そう思って、わたしはまたストローを咥えた。


 二人は付き合ってない。少なくとも瑠々ちゃんにそのつもりはない。それはきっと、間違いないんじゃないかと思う。

 ただ、その角八降という男子がどう思ってるかは知らないけど。




『ブーメラン・オーストラリア』


・プレイ人数: 2人〜4人

・参考年齢: 8歳以上

・プレイ時間: 30分





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