2022/12/07 『アグリコラ:リバイズドエディション』
ボドゲ会には待ち時間が存在する。
ワンゲーム終わって次のゲームを始める前に、隣の卓はもう最終ラウンドだからすぐ終わりそう、だったら隣の卓が終わるのを待ってから次に遊ぶゲームを決めようか、と。そんな時間だ。
その間はそれぞれに、他の卓の気になるゲームの様子を覗いたり、次に遊びたいゲームを考えがら並んでいるゲームを眺めたり、あるいは水分補給をしたり手洗いに行ったり、それから同じ待ち時間のメンバーでお喋りしたりもする。
そのときはちょうどそんな待ち時間で、俺はぼんやりと並んでいるボドゲをなんとはなしに眺めていた。近くには、ひょろりと背の高い中学生のカドさんがいた。
「そういえば俺、『アグリコラ』って、実物で遊んだことないんですよね」
並んでいた中から誰かが持ち込んだらしい『アグリコラ:リバイズドエディション』の箱を手に取って、引っ繰り返して裏面を眺めながら、カドさんがそんなことを言った。
カドさんの手の中で、箱の中でたくさんの駒が動くざらざらという音がする。
「意外。遊んだことないんです?」
俺の言葉に、カドさんは箱から顔を上げて、苦笑するような顔をした。
「実物は、ですね。アプリでは遊んでるんですけど」
「ああ、アプリ。スマホですか?」
「スマホです」
「画面小さくて大変じゃないですか?」
「カードを確認するのにいちいち画面切り替えないといけないのは大変ですね。でもまあ、一人でも遊べるので、アプリだと」
アプリ版は俺も遊んだことがあるけど、カドさんの言う通り、盤面を把握するだけでも画面をいちいち切り替えないといけなくて、それが大変だった。
この『アグリコラ』というゲームは、全体のボードとは別にプレイヤー毎の農場のボードもあって、それぞれにたくさんのカードもあって、それを全部いちいち切り替えながら遊ばないといけない。
必然的に、見落としや判断ミス、プレイミスが増える。
そうなると、実物ならテーブルの上に全部広がっていて、ぱっと把握できるのに、とイライラしてしまう。
結論として、自分はアプリでボドゲするのに向いてない、と思っていた。俺は実物で遊びたいのだ、と。
「ボドゲを一緒に遊べるような人が、これまで周りにいなかったので」
カドさんはそう言うと、少し恥ずかしそうに目を伏せた。『アグリコラ』の箱を元に戻して、それから落ち着かないように髪を搔き上げた。
その様子に、ちょっと前の自分を思い出して、俺は口を開く。
「俺も、誰かと遊ぶようになったの大学入ってからだから、つい最近ですよ。それまではボドゲを買っても、実物は一人で家で広げるだけとかで」
「あ、俺もそれやります。一人なんだけど、四人プレイのつもりで回したりとかして」
「わかります、わかります」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
そのときに感じていたのは、多分、仲間意識のようなものだ。お互いにボドゲが好きで、ボドゲを遊びたくて、それでここに来ている。
「何、なんの話です?」
手洗いから戻ってきた人が話しかけてきた。顔をあげて口を開く。
「カドさん、『アグリコラ』アプリでしか遊んだことないって言うから」
「アプリだと画面小さくて大変じゃない?」
さっきの俺と同じ反応に、カドさんと俺はまた笑った。
そしてそんな間に隣の卓のゲームは終わったらしく、片付けが始まっていた。
俺はカドさんが戻した『アグリコラ』の箱を持ち上げる。
「カドさん、せっかくなんでやりましょう、『アグリコラ』。実物で遊ぶの、楽しいですよ。駒がいっぱいで」
農家になって、開拓して農場を大きくするゲーム。家を大きくして家族を増やして、柵を作って家畜を飼って、畑を増やして小麦や野菜を殖やして。大量のカードの効果を使って。そうやって、立派な農場を作った人が勝つゲーム。
定番とも言えるほどに遊ばれ続けているのも頷ける、面白いゲームだ。
カドさんは少しの間うろうろと視線を彷徨わせて、それからようやく笑って頷いた。
「あの、他にも遊びたいって人がいれば、ぜひ」
さっきの人が隣の卓の片付け中の人たちに「次は向こう『アグリコラ』だって」と言いにいった。片付け中の一人が「あ、『アグリコラ』遊びたい」と声をあげる。
カドさんを見上げれば、カドさんも俺を見た。
「よろしくお願いします。お手柔らかに」
おずおずと自信がなさそうに、カドさんは言った。
「大丈夫ですよ、俺もそこまで強くはないんで。楽しくやりましょう」
「はい、ありがとうございます」
まだちょっとぎこちなく、カドさんは笑って頷いた。
『アグリコラ:リバイズドエディション』
・プレイ人数: 1〜4人
・参考年齢: 12歳以上
・プレイ時間: 約90分
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