2022/12/12 『くだものあつめ』

「ちょっと待って、整理させて」


 わたしは軽く片手をあげて、瑠々るるちゃんの語る内容に一度ストップを入れた。

 瑠々ちゃんが言葉を止めて、わたしの言葉を待つように首を傾ける。それでわたしは、瑠々ちゃんの言った内容を思い返しながら、口を開く。


「ええっと、かどくんが瑠々ちゃんの家に遊びにきたってこと?」


 わたしの言葉に、瑠々ちゃんは瞬きをしてから首を振った。


「わたしの家にっていうか、兄さんのところに。もともと、兄さんと角くんは一緒にボードゲームを遊んでいて、それで遊びにくることになったって」

「でも、それで瑠々ちゃんも一緒に遊んでるんでしょ?」

「呼ばれたから」


 そう言って、瑠々ちゃんは頷いた。

 わたしはとりあえず落ち着こうと、紅芋シェイクを一口。おいものまったりとした甘さが流れ込んできて、その冷たさに少しだけ冷静になることができた。


「えっと、それで、角くんが手土産にアップルパイを持ってきた? 瑠々ちゃんに?」

「わたしにじゃなくて兄さんに、だと思う。兄さんのところに遊びにきたんだし」


 そう語る瑠々ちゃんの表情は大真面目だ。

 何か言ってしまいたくなるのをこらえて、わたしは話を進める。


「で、そのアップルパイが手作りだった?」

「みたい。角くん、たまにお菓子作るんだって」

「お菓子づくりが趣味ってこと?」

「ゲームみたいで楽しいって言ってた」


 つまり、瑠々ちゃんの話を整理すると、こうだ。

 角くんは瑠々ちゃんのお兄さんとボードゲームを遊ぶ仲で、それで瑠々ちゃんの兄さんのところにボードゲームを遊びにきた。その時に、手作りのアップルパイを手土産に持ってきた。瑠々ちゃんは、そこに呼ばれた。


「瑠々ちゃんのお兄さんと角くんて、なんで知り合ったの?」

「ボードゲームを遊ぶ集まりがあるんだって。この辺りでボードゲーム好きな人が集まって、みんなでボードゲームを遊ぶって……わたしも、名前も知らない人とそうやって集まって遊ぶのっていまいちイメージわかないんだけど、そういうものみたい」

「それで仲良くなった相手が瑠々ちゃんのお兄さんだった?」

「みたい」


 もう、どこから何を言えば良いのかわからない。情報量が多い。


「そんな偶然あるの?」

「ボードゲームって実際に集まって遊ぶから、家が近くて趣味が同じならそういうこともあるんだって」

「瑠々ちゃんて角くんと家近いの?」

「小学校も中学校も一緒だったみたい。わたしは認識してなかったんだけど」


 中学校が一緒だったなら、わたしも一緒のはずだ。でもわたしの記憶にも角くんの姿はなかった。角くんは基本的に地味な男子だ。


「それで、なんだっけ。次はタルト?」


 わたしの言葉に、瑠々ちゃんはこくりと頷いた。


「そう。アップルパイを持ってきてくれたときにタルトが出てくるゲームを遊んで、それで『じゃあ次はタルト』って言われて、でも作ってきてくれるのかどうかもわからなくて、何も言えなかったんだけど」


 わたしはストローを咥えたまま頷いて、話の先を促した。


「昨日はボドゲ部で『くだものあつめ』ってゲームを遊んで。畑に種を蒔いて水やりしたり、そうやって増やした種でくだものを買ったりするゲームなんだけど」


 ボードゲームの説明は、申し訳ないけどわたしにはよくわからなかった。それでも喋ってる瑠々ちゃんの邪魔をしないように、わたしはただ頷くだけにしておいた。


「遊び終わって、角くんが『次に遊ぶときはフルーツタルトを作ってくるから』って言い出して、わたしもその場では楽しみって言ったんだけど」


 瑠々ちゃんが困ったように眉を寄せて、ストローを咥えた。

 つられて、わたしも紅芋シェイクをもう一口。飲み頃の柔らかさになっていた。


「何か問題でもあるの? 手作りのお菓子、実は食べるの嫌とか」


 わたしの質問に、瑠々ちゃんは勢いよく首を振った。


「そんなことないよ。アップルパイも美味しかったし、タルトも楽しみなんだけど。なんていうか、もらってばっかりで、何かお礼をした方が良いのかなって思って」

「まあ、そうかもね」

「でも何をお礼に渡せば良いのかわからなくて。手作りのお菓子に対して、市販品を渡すのって、なんかこう……釣り合ってなくない? でもわたし、お菓子なんて作れないし、作ったとしても食べてもらえるものになるかもわからないし」


 瑠々ちゃんはアップルパイが好きだって前に言っていた。きっと美味しそうに食べたんだろうと想像できる。

 それで次はフルーツタルト。きっとそれも美味しそうに食べるんだろう。


「すっかり餌付けされちゃって」


 わたしの言葉に、瑠々ちゃんは渋い顔をした。


「餌付けって……別にそんなつもりじゃないけど」


 瑠々ちゃんの方にそのつもりはなくても角くんがどう思っているかはわからない、というのは考えすぎだろうか。


「まあ、趣味っていうなら作るだけで楽しいってとこもあるんだろうし、言葉でお礼を言って美味しそうに食べてあげれば、作った甲斐はあるんじゃないかな」

「そういうもの?」


 納得いかないような顔をする瑠々ちゃんに、わたしは笑ってみせる。


「気になるなら、何か別のタイミングで『いつものお菓子のお礼』ってまとめて何かあげるとか」

「あ、そっか、そうだね。何回分かまとめてなら、何か考えられるかも」


 わたしの言葉に、素直な瑠々ちゃんはぱっと明るい顔になって、ほっとしたようにストローを咥えた。

 本音を言えば、角くんという男子が手作りのお菓子を作って瑠々ちゃんの家に遊びに行った話はもっと突っ込んで聞きたい気がしていたのだけど、タイミングを逃したような気がして、わたしもただストローを咥えた。

 それに、瑠々ちゃんに聞いてもこれ以上のことはわからなさそうだ。

 そう、もっと本音を言えば、角くんという男子に問い詰めるくらいのことはしたいんだけど。




『くだものあつめ』


・プレイ人数: 2人〜4人

・参考年齢: 6歳以上

・プレイ時間: 15〜30分




 本編だとgame12の前とかその辺りのお話です。

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