2022/12/23 『センチュリー:ゴーレム』
あのとき、るるちゃんはずっと怖がっていた。お化けにびっくりさせられるたびに叫んで、泣きそうな顔で何度も「もうやだ」って言っていた。
俺が代わりにサイコロを転がしてみたけど、何も起きなかった。どうやらるるちゃんが転がさないと、ゲームは進まない。
そのことが、そのときの俺には面白くなかった。自分だって遊びたいのにって思っていた。
それでもやっと辿り着いたゴールの手前。次に三を出せばゴールだっていうときに、るるちゃんが振ったサイコロは二を出した。それは一回休みのマスで、俺とるるちゃんは骸骨の部屋に閉じ込められた。
それも面白くなかった俺は、言ってしまったのだ。
「るるちゃんのせいだ」
俺の言葉に、るるちゃんは遂に泣き出してしまった。一回休みが終わってるるちゃんの番になっても、るるちゃんは泣くばかりでサイコロを振らなかった。
そのるるちゃんに俺は、サイコロを無理矢理握らせた。るるちゃんは泣きながら「やだ!」と叫んで、そのサイコロを放り出した。サイコロは床に転がって──部屋のドアが開いて、俺は泣き続けるるるちゃんの手を引いてお化け屋敷を出た。
それがゴールだった。
気付けば、いつもの通りの保育園。目の前には今さっきまで遊んでいたお化け屋敷のすごろく。サイコロとコマが辺りに散らばっていた。
るるちゃんが大泣きしていたから、保育園の先生がやってきて「どうしたの?」って聞かれたけど、俺もるるちゃんもそれにはうまく答えることができなかった。
そして次の日からるるちゃんは、俺と口を聞いてくれなくなった。
ゲームの世界を体験してしまったその出来事を、俺はずっと忘れることができないでいる。
俺がボードゲームというものの魅力を知ってしまったきっかけでもあるし、同時に一緒に遊んでいた女の子を泣かせてしまったという、苦い思い出でもある。
一緒に遊んでいた
中学でも同じクラスにはならなかった。
俺は相変わらずボードゲームが好きで、相変わらず彼女と遊んだあの体験を魅力的なものとして覚えている。だから、彼女のことも少し気にしていた。
彼女はどうやらゲームを遊ばないらしい。ゲームが嫌いらしい。そんな話も聞いた。
そのゲーム嫌いはきっと、あの思い出のせいなんじゃないかって、俺はそう思っていた。
新しいボードゲームの箱を開けるのは、いつも楽しい。箱の中からいろんなものが飛び出してくるような、そこから世界が広がってゆくような、そんな気持ちになる。
ルールを読みながら、
この『センチュリー:ゴーレム』というボードゲームは、ゴーレムの材料になるクリスタルを生み出したり、変換したりしながら、指定の色を指定の個数集めてゴーレムを作るゲームだ。
作ったゴーレムによって点数が決まって、そうやって点数を稼ぐ。
床にプレイマットがわりの大きなフェルトを広げて、その上にルールに書かれた通りにカードを並べて準備してゆく。次はゲームの進め方、手番でできること、それからゲームの終了条件、勝者の決定。
楽しそうだ、と期待が高まる。誰かと遊びたい、という気持ちが湧き上がってくる。
学校の友達とはもっぱら携帯ゲーム機のゲームばかりで、ボードゲームで遊ぶことはない。もしかしたら、俺がもっとうまく説明できれば遊べるのかもだけど、今までうまく話せたことはない。だからボードゲームを新しく買っても、ほとんどがこうやって一人で眺めているだけだ。
誰かと一緒に遊べたら。
そう思うたびに頭をよぎるのは、やっぱり彼女と体験したあの特別なゲームの思い出だ。あんなふうに体験できるなら、きっとこのカードに描かれた大きなゴーレムも見ることができる。
そして、泣き出した彼女のことも一緒に思い出して、溜息をつく。
俺はルールを見ながら、試しにとカードを一枚選んでみた。そしたら次のプレイヤーの手番。じゃあ次は、カードを使ってみよう。このカードを使えばクリスタルが手に入る。
そうやって一人でゲームを進めながら、気付けばまた彼女のことを考えていた。
なんとかして、もう一度彼女と遊べないだろうか。そしてまたゲームを体験できたら、きっとめちゃくちゃ楽しいのに。
もう一度やり直せるなら、俺はもうあんなことは言わない。もし次があるなら、彼女が泣かなくても済むようにする。
でも、そのもう一度は、きっともうない。
だから俺は、こうやって一人でボードゲームを広げて、一人で遊ぶだけ。きっと、この先もずっと。
『センチュリー:ゴーレム』
・プレイ人数: 2〜5人
・参考年齢: 8歳以上
・プレイ時間: 30〜45分
中学一年生くらいの頃。
そんな彼も、やがては思い切ってボドゲ会に参加したり、ボドゲ部を立ち上げたりするようになるのはご存知の通りです。
大須さんのゲーム嫌いには実は兄さんの方が大きく関わっている、というのも彼は知りません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます