2022/12/18 『アクリルトークントレイ(スモーク色)』

 小さな雑居ビル、狭い階段を登って三階。前に兄さんに連れてきてもらったお店だ。

 深呼吸してからドアを開ければ、目の前にはボードゲームの箱だとか雑誌だとかが並んでいるスペースがあった。口の中で小さく「大丈夫」と呟いて、その裏に回り込む。

 前に来たときと配置が変わってなくてほっとする。その場所には、ゲームに関連しているらしい商品が並んでいた。

 色とりどりのサイコロ。キーホルダーやペンダントといったもの。テーブルの上に広げて敷くための布。カードや小さなチップなんかを整理するためのビニール袋。それ以外にも、わたしじゃ何に使うのかわからないものもある。

 店の奥の方には、本が並んでいるスペースや、ボードゲームの箱が並んでいる棚があった。そっちの方はあまり見ないようにする。

 なんだか、店員さんや他のお客さんにじろじろ見られてるような気がして落ち着かない。やっぱり兄さんに頼んで一緒に来てもらったら良かった、とちょっと弱気な考えが頭を過ぎった。

 けど、もう一度小さく「大丈夫」と呟いて、顔を上げた。一人でも大丈夫。一人で、ちゃんと落ち着いて、かどくんへのプレゼントを選ぶんだ。

 そのつもりでわたしは今日、このお店に来たのだった。




 前に選んだのは、サイコロの形のキーホルダーだった。だから、キーホルダーは候補から外す。そんなにキーホルダーばっかりもらっても困るだろうし。

 Tシャツもあったけど、何をモチーフにしたものかわたしにはわからなかったし、趣味に合わない服をもらっても困るだろうな、と思ってそれもやめておいた。

 前に兄さんにはサイコロはどうか、と言われたんだった。でもやっぱり、たくさん並んだサイコロを見ると戸惑ってしまう。四角いものばかりじゃなくて、いろんな形のサイコロがあるのだ。

 確かにいろんな色があって、中にはきらきらと綺麗なものもあったけど、やっぱりわたしには選びきれない気がした。

 他に兄さんは何を言っていたっけ。そう思いながら、グッズの棚を見てまわる。




 フェルトの布が置いてあった。四隅にスナップが付いていて、それを留めるとトレイになるらしい。

 そういえば、こういうトレイはいくつあっても良い、と兄さんが言ってた気がする。

 兄さんの言葉を思い出して、並んだトレイを眺める。フェルトの布以外にも、プラスチックでできたものもあった。木でできたお皿みたいなものもあった。

 その中に、透明な菱形が六つ並んでいるトレイがあった。

 うっすらと青っぽい色で、六つ並んでいる様子は花のような、雪の結晶のような。

 近くの値札には『アクリルトークントレイ』と書かれていた。その脇に小さな字で「使いやすい大きさ」「片付けもしやすい」「透明でボードが見やすい」と売り文句が書かれている。

 値段も手頃な気がした。何より、並んだ姿が綺麗で、そこが一番気に入った。

 これにしようと箱に手を伸ばしかけて、ふと、隣に同じ形の黒っぽい色のものが並んでいることに気付いた。

 値札には『アクリルトークントレイ(スモーク色)』と書かれていた。値段は変わらない。

 だったら、角くんは黒い色が好きだし、こっちのスモーク色にしよう。

 プレゼントが決まったことが嬉しくて、その箱を手に取る。箱のデザインもなんだか可愛い気がした。




 レジでお会計をして、お店を出る。ほっと息を吐く。

 大丈夫だとわかっていても、ゲームに囲まれている状況というのはやっぱり緊張する。

 それでもわたしは、大丈夫になった。こうやってボードゲームのお店に一人で入って、買い物だってできる。

 ボードゲームを無闇に怖がらなくても良いってわかったのは、角くんのおかげ。角くんが「大丈夫」って教えてくれた。

 自分一人で選べたことが嬉しくて、わたしはすっかりプレゼントを渡すのが楽しみになっていた。

 角くん、喜んでくれるかな。喜んでもらえると良いな。




『アクリルトークントレイ(スモーク色)』

 ちょうど良い大きさ、ちょうど良い形のトレイが六つ入っています。

 使いやすくておすすめ。




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