2022/12/25 『パッチワーク:冬の贈り物』おまけのクッキー型

 二十五日、少し早めに訪れたかどくんを出迎えて兄さんの部屋に案内する。


「兄さんはバイトが長引いて遅くなるって。ごめんね、兄さんが呼び出したのに」

「俺は全然、こうして一緒に……遊べるだけで嬉しいから」


 角くんはいつも通り機嫌の良さそうな顔で、ボードゲームがよほど楽しみなんだろうな、と思う。


「紅茶淹れてくるから、ちょっと待ってて」


 マフラーを外す角くんにそう言って兄さんの部屋を出るところで、角くんに呼び止められる。


瑠々るるちゃん、これ、クッキーなんだけど、良かったら」

「今日も手作り?」


 角くんは少し照れたように目を伏せた。


「そんなにたいしたことはしてないけど」

「ありがとう。楽しみ」


 角くんから紙袋を受け取って、わたしは部屋を出て台所に向かった。




 せっかくのクッキーを紅茶を一緒にいただこうと袋を開ける。

 可愛いピンク色と緑色。赤と緑でクリスマスカラーってことなのかもしれない。見るだけで笑みがこぼれるような可愛い色合い。

 何枚か取ってお皿に乗せると、みんな凸の形をしていた。ピンクも緑も全部同じ形だ。何かこの形に意味があるんだろうかと考えたけどよくわからない。

 角くんに聞いてみたら良いかと紅茶と一緒にトレイに乗せて運ぶ。


「この形ってなんの意味があるの?」


 兄さんの部屋に戻って、紅茶のカップに口をつける角くんにそう聞いてみた。

 角くんは「ああ」と小さく呟いて、紅茶のカップを置いて、今度はクッキーを一枚持ち上げた。緑色のクッキーは抹茶味らしい。


「『パッチワーク』ってボドゲがあってね、いろんな形の布地を縫い合わせてパッチワークを作るゲームなんだけど」


 突然始まったボードゲームの話に、わたしは首を傾ける。


「それとルールやゲーム内容は同じなんだけど、デザインがクリスマスっぽくなっている『冬の贈り物』っていうバージョンもあって、それのおまけにクッキー型が入ってるんだ。布地タイルの形のクッキー型。それが、この形。まあ、実際の布地タイルはもっといろんな形をしてるんだけどね」

「クッキー型? ボードゲームに? 何に使うの?」

「それはもちろん、クッキー型だからクッキーを作る」

「ボードゲームとクッキーに何か関係があるの?」

「ボドゲっていうより、クリスマスかな。クリスマスにはジンジャークッキーを焼くから、それに使ってってことだと思う」


 角くんに説明されてもまだ、どうしてボードゲームのおまけにクッキー型がついてくるのか、よくわからないまま。それでも、このクッキーがそのおまけのクッキー型で作ったもの、というのはわかった。

 わたしもクッキーを一枚手にとって眺める。ピンク色のクッキーはいちご味なのだそうだ。

 こうやって眺めてもやっぱりボードゲームとクッキーの関係はわからない。でも、クッキーは美味しそうだった。


「美味しそう、いただきます」

「どうぞ」


 口に咥えればさっくりと歯に当たる。そして生地がほろほろと舌の上で崩れていった。いちごのかおりと、ほんのりとした酸っぱさ、それからバターのかおりと生地の甘さ。

 甘くて美味しいものを食べて、その幸せに自然と笑顔になってしまう。


「美味しい」

「なら良かった」


 角くんがほっとしたように笑って、それから手にしていた抹茶のクッキーを口にした。


「ジンジャークッキーとどっちにするか悩んで、クリスマスカラーにしたんだけど」

「色も可愛いよ」

「良かった」


 二人で顔を見合わせて笑い合って、それから温かな紅茶を飲む。


「そうだ、あとこれ」


 角くんがまるでたった今思い出したみたいに声をあげて、それから小さな包みを取り出した。それをわたしに差し出してくる。


「せっかくのクリスマスだし、やっぱりプレゼントがあった方が良いと思って。たいしたものじゃないんだけど」


 やっぱり角くんはまた、プレゼントを用意してくれていた。

 でも今年はわたしだってちゃんとプレゼントを用意している。


「わたしも、角くんにはいつももらってばかりだから。その、これ……良かったら」


 渡そうと思って用意していたのに、なんだか急に不安になってしまって、声が小さくなる。

 お互いに差し出したプレゼントを交換した。わたしは角くんに喜んでもらえるか不安で、角くんの様子をじっと見てしまう。

 角くんがプレゼントの包みを開けるのが、ずいぶんとゆっくり感じられた。袋のシールを剥がして、中を覗き込んで、それから顔をあげてわたしを見る。


「えっと、あの、何が良いかわからなくて、いろいろ考えたんだけど、でも、その、要らないものだったらごめん」


 言い訳のようなわたしの言葉に、角くんは嬉しそうに目を細めて穏やかに微笑んで、ゆっくりと首を振った。


「要らなくない。すごく嬉しいよ、すごく」

「良かった」


 わたしはほっと息を吐いて、体の力を抜いた。

 それでわたしも包みを開ける。中身は栞だった。切り絵のような、ステンドグラスのような、繊細なデザインだった。その中に黒い猫がいる。綺麗で可愛い栞だった。


「ありがとう、瑠々ちゃん。大事に使う」

「うん。わたしも、その、ありがとう」


 それでまた二人で顔を見合わせて笑い合う。




 バイトが長引いているという兄さんは、その後もなかなか帰ってこなかった。それで二人で、クッキーを食べて紅茶を飲んで、それからその『パッチワーク』というゲームを遊んだりして過ごした。

 角くんが楽しそうに笑っていたから、わたしは嬉しくて、それにやっぱり楽しくて、わたしもいっぱい笑っていた。




『パッチワーク:冬の贈り物』


・プレイ人数: 2人

・参考年齢: 8歳以上

・プレイ時間: 30分前後


 おまけにクッキー型が入ってます(本当です)。




 ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました。

 良いお年を!




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