2022/12/10 『スカウト!』
「じゃあ、まずは『3』」
「優しい! じゃあ『5』」
「優しい世界だ」
始まったばかりのゲームで、様子見みたいなカードが続く。
視線で手番が回ってきて、俺は手札からカードを一枚引き抜いて目の前に出す。
「じゃあ俺も優しく『7』で」
そして俺も隣に視線を送る。俺の左隣にはカドさんが座っていて、つまり次はカドさんの手番てことだ。
カドさんは自分の手札から一枚を引き抜いた。
「じゃあ『9』で」
このゲームでカードの数は「1」から「10」。「9」より強いカードは「10」しかない。
手番も一巡して、ここからがこの『スカウト!』というボドゲの本番だった。
「これしか出せるのないや、ごめん。『2』二枚」
「うわ、優しくない!」
次の人はそんな声を上げつつも、自分の手札からカードを三枚出す。
「しょうがないなあ、『6』『7』『8』で」
このゲームでは、カードの枚数が多い方が強い。ただし、なんでも出せば良いわけじゃない。
一度に出せるカードは、同じ数か連番じゃないと出せない。しかも、手札の中で自由に並び替えはできないのに、手札で隣り合っているカードだけを一度に出すことができる。
だから、最初にみんなが様子見のように出していた一枚のカードは、それぞれ間に挟まった邪魔なカードを処分する意味もあったということだ。
俺は自分の手札と場の三枚を見比べて溜息をつく。
手札には「8」が三枚ある。カードの枚数が同じ場合は、連番よりも同数の方が勝つ。だから「8」三枚を出そうと思えば出してしまえるけど、ほとんど切り札に近い「8」三枚をここで使うわけにはいかない。
「スカウトで」
そう宣言して、俺は前の人が出したカードから「8」のカードを一枚手に入れる。これがこのゲームの面白さの一つ。
このカードは引っ繰り返すと「2」になるカード。それをそのままでも引っ繰り返してでも、自分の手札の好きなところに差し込める。
自分の手札の「8」を四枚にするのも魅力的だけど、それよりも半端になっている「9」一枚の隣に置いて「8」「9」の連番を作ってしまう。
俺が「8」を取ったから、場のカードは「6」「7」の二枚の連番になった。
どうぞ、とカドさんに手番を譲れば、カドさんはほっとした顔をしていた。もしかしたらカドさんは三枚出すの厳しいんじゃないか、とそれで予想する。
「じゃあ『2』を二枚で」
そうやって、手札のカードを減らしたり増やしたりしながら、得点を稼ぐゲームだ。手札に残ったカードはマイナス点だから、手札のカードは失くなった方が良いけど、点数はそれだけじゃない。
カードを出すことで、それまで出ていたカードを点数として受け取れる。自分が出したカードをスカウトされたら、それも点数になる。
そんな要素も組み合わさって、さっと遊べる面白いゲームになっている。
そこからゲームは、俺の「8」三枚の切り札が「1」五枚によって阻止されたり、そんな思いがけない展開で一盛り上がりして、結局俺は二位だった。
ちなみにカドさんは最下位。途中明らかに数のインフレについていけない感じだったから、手札に恵まれなかったんだろうな、という気がする。
「頑張っても三枚が作れなくて」
と、本人も言っていた。それでも楽しそうに笑っているんだから、カドさんはよっぽどボドゲが好きなんだろう。人のことは言えないけど。
「どうしますか、もう一戦やります?」
「いや、なんかあっちの卓がもう片付けしてるんで、これで終わりにしましょう」
そうやって、待ち時間の軽ゲーは終わりを迎えた。みんなでありがとうございましたと挨拶をして、それから手早くカードとチップを片付ける。
椅子から立ち上がって、それを口にしたのは本当に何気なくだった。
「そういえば、今度大学の先輩の家でボドゲ遊ぶんですけど、カドさんも来ます?」
俺の言葉に、カドさんはびっくりしたように目を見開いた。それから、落ち着かないように視線を彷徨わせて、また俺を見る。
「えっと、その……」
「あ、無理にとは言わないですけど。先輩、重ゲー好きな人なんで、基本重ゲーばっかりやることになると思うし」
「いや、お誘い嬉しいです。俺が行って良いなら……その、お邪魔でなければ……」
戸惑いながらそう言うカドさんの表情が、なんだか不意に年相応に幼く見えてしまった。それで、そうか中学生だった、と思い出して、妙に慌ててしまった。
「本当にボドゲするだけの集まりで、怪しいことはないんで。出入りも自由だし。だから、カドさんさえ良ければ。その……親に怒られない範囲で」
俺の早口の説明に、カドさんはほっとしたように笑った。
「俺が行って良いなら、ぜひ」
「じゃあ、また連絡します」
そうやってお互いにスマホを出して連絡先を交換して。
自分でも、どうして急に誘う気になったのか、そのときにはわかっていなかったけど。
まあ要するに、カドさんとは楽しく遊べそうな気がしていた。それだけのことだ。
『スカウト!』
・プレイ人数: 3人〜5人
・参考年齢: 9歳以上
・プレイ時間: 約15分
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