2022/11/28 『サグラダ』

「サグラダ・ファミリア?」


 かどくんの言葉に首を傾ける。

 カホンバッグを背負った角くんは、ちょっと背中を揺すってからわたしを見下ろして頷いた。角くんの背中で、カホンバッグの中からがちゃがちゃと賑やかな音が聞こえる。

 今日もたくさんのボードゲームを持ってきているらしい。


「スペインにある教会で、ずっと完成しないで建築し続けてるっていう」

「言われてみれば、聞いたことがあるような気はするけど」


 完成しない教会、という言葉には聞き覚えがあった。でも、それがサグラダ・ファミリアなのかは自信がない。


瑠々るるちゃん、また明日ね」


 あやちゃんの声に振り向いて、わたしも「またね」と手を振る。あやちゃんは図書委員で、今日は当番の日だ。あやちゃんが教室を出るのを見送ってから、角くんが歩き出すのに合わせてわたしも教室を後にする。


「ステンドグラスが綺麗なことで有名なんだよ、そのサグラダ・ファミリアが」


 角くんはわたしの歩幅に合わせて廊下をゆっくりと歩きながら、そう言った。


「ステンドグラス……そうなんだ」


 話の着地点が見えなくて、わたしはやっぱり首を傾けるしかできない。

 隣を見上げると、角くんはいつも通りの機嫌の良さそうな顔で言葉を続けた。


「そのサグラダ・ファミリアのステンドグラスを題材にしたボドゲがあってね。『サグラダ』って言うんだけど」


 どうやら、これが本題らしい。つまり、角くんはずっとボードゲームの話をしていたのだ。

 角くんらしい、と思って笑ってしまった。


「透明なダイスをステンドグラスに見立てて、並べて遊ぶんだ。それがめちゃくちゃ綺麗でね、すごく良いコンポーネントだから見て欲しいんだけど」


 そう言って、角くんは期待するような視線をわたしに向けた。

 わたしはちょっと悩む素振りを見せてから、それに頷きを返す。


「良いよ。見るだけなら。遊ぶかはわからないけど」

「ゲームも楽しいと思うよ。まあ、でもまずは見るだけでも」


 角くんはわたしの顔を覗き込むようにして、笑った。ほっとしたように、嬉しそうに。

 ボードゲームが好きな角くんは、こうやってボードゲームを持ってきては、その世界をわたしに見せてくれる。単にボードゲームってだけじゃなくて、わたしの知らない新しい世界を。

 最初は恐る恐るだったわたしも、気付けば角くんが見せてくれる世界を楽しみにするようになっていた。


 それは全部、角くんのせいだ。


 第三資料室は校舎の四階の端っこ。階段を登る角くんの背中を追いかけて、わたしも階段を登る。踊り場で、角くんが振り返る。わたしを見下ろして笑う。

 窓から差し込む光の中に、角くんは立っていた。

 ここは学校で、踊り場の窓はもちろんステンドグラスなんかじゃない。でも、ステンドグラスの光を見上げると、こんな気分になるかもしれない、なんて思ってしまった。




『サグラダ』


・プレイ人数: 1〜4人

・参考年齢: 14歳以上

・プレイ時間: 20〜40分


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