2022/12/02 『花火』
夏祭り、誘ったのは俺だ。
だというのに、待ち合わせに浴衣を着て現れた
濃い赤い色に白い小花を散らした模様。浴衣の濃い色で、肌が余計に白く見える。髪の毛はまとめられて、黄色い花の飾りが揺れている。
「あ、
人混みの中で俺を見付けてほっとしたように微笑む姿が、なんだかやけに大人っぽく見えた。
この夏祭りは神社のもので、だからまずはその神社にお参りに行く。下駄で歩く瑠々ちゃんに合わせて、いつもよりもさらにゆっくりと歩く。
「花火もあれば良いのにね」
歩きながら、瑠々ちゃんがそんなことを言う。残念ながらこのお祭りで花火はあがらない。
「見たかった?」
そう聞けば、瑠々ちゃんは花の飾りを揺らして頷いた。
「あった方がお祭りっぽくない?」
「そうだね。ゲームの中では見たけど」
何気なくそう言えば、瑠々ちゃんは急に口を閉じた。さっとその頰に赤みがさしたかと思うと、不意に顔を俯けた。うなじの白さがやけにくっきりと見える。
その反応に、俺もゲームの中でのことを思い出してしまった。二人で、人混みで、手を繋いで花火を見たんだった。でもあれはゲームの中のこと。
それでも、その思い出は確かに瑠々ちゃんと俺の中に存在していて、どうして良いかわからなくなってしまった。
すっかり黙り込んでしまった瑠々ちゃんに並んで歩きながら、落ち着こうとあれこれ考える。
花火の話題から離れた方が良いのか。それとも続けた方が良いのか。そういえば『花火』ってボドゲがあったな。でも、今すべきはボドゲの話じゃないってことはわかる。
結局、神社でお参りを済ませるまで、俺は何も話せなくなっていた。瑠々ちゃんも何も言わなかった。
瑠々ちゃんは林檎が好き。だから林檎飴。
単純な発想だとは思うけど、「食べる?」と聞けば「食べたい」と返ってきたので、なんだかそういうところはいつも通りで良かったって安心して、それで林檎飴を買って手渡した。
林檎飴を食べるのに団扇が邪魔そうだったので、何気なくそれを受け取った。
空いた手に気付いて、ふと、人混みを理由に手を繋いでも良いんじゃないかって、頭を過ぎった。
いや、でも、どうだろう。瑠々ちゃんはどう思うだろうか。
これまで、ゲームの中で手を繋いだことはあったけど、そうじゃないときに触れたことはなかった。あれはゲーム中だったから大丈夫だっただけで、今ここで急に手を繋いだりしたら、嫌がられたりするんじゃないだろうか。
少なくともびっくりはされる気がする。困った顔なんかされたら嫌だな。
頭の中でいろいろなことを考えているうちに、瑠々ちゃんは空いた片手を持ち上げて、林檎飴の棒を両手で握った。
残念なような。でも、正直ちょっとほっとしてもいた。
『花火』というボドゲは、協力ゲームだ。自分の手札は見えなくて、他の人にヒントを出してもらいながら、他の人にヒントを出しながら、見えない手札から条件に合う花火のカードを出さないといけない。そうやって、全員で花火の打ち上げ成功を狙うゲーム。
なんだか今、そんな気分だった。
つまり、自分の手札が見えないまま、手札を選ばされている気分。
どれを選んで良いのかわからない。どれを出したら駄目なのかわからない。瑠々ちゃんの視線が、表情が、動作が、ヒントをくれているはずなのに、正解が何もわからない。
林檎飴を食べる瑠々ちゃんの姿を見下ろして、なんだか今日は負けた気分だった。
『花火』
・プレイ人数: 2〜5人
・参考年齢: 8歳以上
・プレイ時間: 25分前後
二人が夏祭りに行ったのは、本編『game 19:なつめも』の後です。
夏祭りについてはこちらもどうぞ。
夏休みにクラスメートがようやく付き合い始めたと思ったけどまだ付き合ってないらしい
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