2022/12/15 『ハピエストタウン』

「ボドゲ部、二年になっても続けるって聞いたけど、最近はどうなの?」


 高校二年のクラス替え、文理選択で文系を希望した瑠々るるちゃんとわたしは、同じクラスになった。

 例のかどくんて男子も同じクラスだった。ボドゲ部はまだ仮状態らしいけど、ときどき瑠々ちゃんと二人で教室を出てゆく姿を見る。

 季節限定の桜フラペチーノを片手に、今日はその辺りのことを聞くつもりで、話を切り出した。

 瑠々ちゃんはストローから口を離して隣のわたしを見上げる。


「この前は『ハピエストタウン』ってボードゲームを遊んだよ。お金で建物を買って、そうすると手に入るお金が増えて、最終的には街の人口と幸福度をあげるってゲーム。建物がみんな可愛くてね」


 楽しそうに話す瑠々ちゃんに申し訳ないと思いつつ、わたしはボードゲームの説明を遮った。


「遊んだゲームの話じゃなくて、角くんとのこと。二人、ずいぶんと仲良さそうだし、一緒にいることも多いし、最近また『あの二人どうなの?』って聞かれるの増えてきたんだけど」

「え」


 瑠々ちゃんはびっくりした顔になって、それから何度か瞬きをすると、落ち着かないように視線をうろうろさせ始めた。


「仲良い、かな。別にそんなつもりはなくて」

「付き合ってるってわけじゃないんだよね?」

「違う」


 瑠々ちゃんが首を振って、柔らかそうな髪がふんわりと広がった。

 それから、困ったように目を伏せる。その頰が、ほんのりと淡く染まっていることに気付く。


「角くんはボードゲームが好きなだけで、わたしと一緒にいるのも、単にボードゲームを遊びたいだけで……だから、きっと、そういうんじゃないと思う」


 わたしは瞬きをして、瑠々ちゃんの珍しい表情を見下ろしていた。

 これまで、瑠々ちゃんは否定するときも割とあっけらかんとしていた気がする。それが、何があってこんなふうに、恥じらうような反応をするようになったのか。


「でも、ボードゲームを遊ぶなら、別に瑠々ちゃんが相手じゃなくても良いわけでしょ? だったら、角くんは瑠々ちゃんと」

「それは、わたしの兄さんが角くんと友達で、それで、だから、わたしがちょうど便利ってだけで……角くんにとっては、きっとそれだけだと思う。本当は、わたしじゃなくても良いんだよ、きっと」


 わたしが何か言うたびに、瑠々ちゃんは言葉を連ねる。でもその言葉はまるで、瑠々ちゃん自身がそう思いたがっているようで、それでいて、何か別の結論を待っているような。


「瑠々ちゃんは……」


 それはもう、そうなんじゃないかって、そんな気がしたんだけど。でも、言ってしまったらきっと、何かが変わってしまうんじゃないだろうか。

 だからわたしは、その言葉を飲み込んだ。代わりに遠回しな質問をする。


「角くんとボードゲームで遊ぶのは、嫌じゃないの?」

「そう、だね。嫌ではない、かな」


 目を伏せてそう答える瑠々ちゃんの表情は、嫌ではないどころか、どこか嬉しそうだった。何を思い出しているのか、小さく微笑んで。


「楽しく遊べてるんだよね?」

「それは、うん、楽しいよ。角くんがそういうゲームを持ってきてくれるから」


 瑠々ちゃんが首を傾けて笑う。


「角くんは、わたしが怖いもの苦手だからすごく気を遣ってくれるんだよね。それで、ボードゲームも楽しいかもって、最近はちょっと思えるようになって」


 一年生の最初の頃、角くんが怖いゲームを持ってくることがある、と困った顔をしていた瑠々ちゃんを思い出す。それも、いつの間にか変わってしまったらしい。


「楽しいなら良かったね」


 わたしがそう言えば、瑠々ちゃんは嬉しそうに頷いて、またストローを咥えた。

 瑠々ちゃんはなんだかふわふわはしている。それはきっと、そういうことなんだって、わたしは確信していた。でも、まだ何も言わない。何も言わないまま、自分たちが気付くまで、近くで見ていようと思った。

 自分のそれが親切なのか意地悪なのか、自分でもよくわかっていないのだけど。瑠々ちゃんだって自分の気持ちがなんなのかわかってないんだから、それでちょうど良いくらいなんじゃないかな、きっと。




『ハピエストタウン』


・プレイ人数: 2人〜4人

・参考年齢: 6歳〜

・プレイ時間: 15分前後




 game 16と17の間くらいのお話です。

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