鬼は人を愛し、人は鬼を変える

 大正時代を舞台に、それぞれに儘ならない人生を強いられる女性たちが鬼と心を通わせる連作短編集です。金の檻、紅の繭、蒼い薔薇──色を冠した幻想的なモチーフは、彼女たちの苦悩の象徴であり、彼女たちが出会う鬼が纏う色でもあります。彼女たちの人生の中で初めて煌めいた色を集めて万華鏡にしたような物語だと思いました。
 家や時代という桎梏に縛られ、人の世で幸せになれない彼女たちが美しい異形によって救われる異類婚姻譚の構造、それ自体も美しく切なく心惹かれますが、本作の見どころはそれだけではありません。色とりどりの物語を追ううちに、それぞれのエピソードが絡み合い、「本筋」に込められた深い想いが浮かび上がることでしょう。鬼が一方的に人を救うのではなく、人との関わりによって、不死と人喰いの業を負った鬼がいかに変わり、いかに救われるのか──タイトル通りの色鮮やかな万華鏡を覗き見るかのような美しく希望溢れる結末を、どうぞ見届けてくださいますように。

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