第一章、始まり、長野健斗

 電車が揺れている。目の前には昼間から酔っぱらった中年のジジイ。俺に向かってものすごい剣幕で怒鳴っているが、学校帰りの疲れた頭には申し訳ないほど入ってこない。


 その時、俺の横にいる友人の早瀬明日香はやせ あすかが握りこぶしを作り、息を吸い込んだのが分かった。俺の背筋が少しずつ冷え始め、眠気が若干引いた。嫌な予感がする。明日香が何かを始めようとする時、それはだいたいぶっ飛んでいる、良い意味でも悪い意味でも。


 俺はこの後起こることを危惧して、思わず目を瞑ってしまった。そして嫌な予感は的中した。


「私の彼氏に手を出さないでください!」


 明日香はそう言い放った。俺は思わず目をかっ開いてしまった。眠気などどうでもいい。でもこの状況は理解不能だ。下手に声を出して否定するわけにもいかなかった。

 次の瞬間、俺は明日香に手を握られた。しかも俗に言う「恋人繋ぎ」だ。そして、俺は彼女に腕をひかれるがまま、電車の車両を移った。


 もはや何が何だか分からない。俺の頭はパニックそのものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る