第四章、交点、河上美央
知らない人から話しかけられている。どうして?
「ええと、すみません。ちょっと聞きたいことがあって」
「何ですか、というか誰ですか」
反射的に冷たく返してしまう。こんな感じだから私は友達ができないのかな、と自覚させられる。
「三組の
知名度激低の私の名前がなぜか知られていて、いささかの恐怖と驚きを覚える。それはいいとして、なんで初対面のこいつに、私が昨日味わった衝撃を語らないといけないのだろう。そう思うと腹の底が煮えたぎってきた。
「あなたには関係ない」
質問の答えになっていない。だが彼は諦めない。彼の次の言葉が私を追う。
「実は僕、早瀬さんのことが本当に好きで、二人の関係の真実を知りたいんです。」
息を呑み、彼の目を思わず見つめてしまう。そして彼は続ける。
「だって河上さんは、僕と同じ目をしていたから」
涙が溢れそうになるのをぐっとこらえる。私は俯いて平静をどうにか保ち、言葉を紡ぐ。
「・・・私も、海野くんと同じ状況かもしれません。私、長野健斗くんのことが去年の入学式の日からずっと好きだったんです。昨日その現場を見てしまってすごいショックで」
えっ、と彼は短く声を上げ、深呼吸をする。
「良ければ、その話聞かせてくれませんか」
私は頷き、昨日見たあるがままを彼に話した。言葉が詰まってしまうことが何度もあったが、彼は最後までしっかりと聞いてくれた。なんだか少し嬉しかった。
「なるほど、ありがとうございます。それと、僕には勝手な考えがあって・・・聞いてくれますか?」
「はい。聞きたいです。」
私は覚悟して、彼の目を見てそう返事する。
「実は僕、『あの二人は付き合っていないのでは?』とかなり思っています。現実から目を逸らしているだけ、と思われるかもしれません。僕の考えの根拠はありませんが、彼らが付き合っている、明確な証拠もありません。だから、僕は早瀬さんを諦めません。」
私は彼に感心してしまう。きっぱり、「諦めません」と言えるなんて。何度もうんうん、と頷いていると彼が続ける。
「それで、僕はあの二人の関係を探りつつ、恋しています。河上さんも僕と協力し、一緒に頑張りませんか?」
「はい、その発想はありませんでした。私も、決定的な証拠が出るまで、粘ります。お互い頑張りましょう。」
気づけば自然と笑みがこぼれていた。新しい世界と運命が始まった気がした。
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