エピローグ、海野寛太
「・・・あのさ駿、人の気持ちぐらい考えろ」
その声に苛立ちがこもる。そんな僕とは裏腹に、駿はいつになくハイテンションだ。朝の静かな教室だと、余計に駿のうるささが目立つ。
ちなみに僕は、先ほど駿に好きバレした。それと同時に、俗に言う「スピーカー」属性のある駿の手によって、今クラスにいる人全員にも伝わってしまった。もう今日は散々だ。クラスメートの視線が痛い。失恋と恥辱を今、僕は同時に味わっている。もはや心の防衛本能が働いているのか、痛くもかゆくもない。
だが待て、よく考えろ。高二の今、僕と駿と早瀬さん、そして長野までが同じクラスだ。それに気づいた瞬間、一気に絶望が襲ってきた。僕のメンタルは当然持たないだろう。まして駿が何をしでかすか分からない。魂が抜けている僕が見えていないのか、駿の暴走は止まる気配を見せない。
「だって!早瀬明日香と長野健斗が付き合ったその瞬間に立ち会えたんだぞ!!もうオレさ、電車の事件見れた時からラッキーだなとは思ってたけどさっ・・・!」
「立ち会うも何も・・・覗き見してただけだろ」
冷静にツッコむ。心が痛いからこれ以上何も言わないでくれ、というのが今の本心だが。すると駿はニヤニヤしながら返してくる。
「バレたー?まぁいいよ今日はメシおごるわ、失恋話でも聞いてやるよ」
駿は良いやつなのか悪いやつなのか分からない、だけど憎めない。
数日前、河上さんからメッセージが来たことを不意に思い出す。「告白したけど、振られました。」とだけあった。あれから河上さんと会えていない。元気にしているだろうか、という心配が、ここ数日ずっと頭をかすめている。
河上さんに会ったら何と言おう、そんなことをぼんやり考えながら僕は教室を出た。あたりを見回すと、遠くに河上さんの背中が見えた。生気がだんだんと戻ってくる。
それを感じながら、僕は反射的に駆けだした。
そして、恋は始まる。 潮珱夕凪 @Yu_na__Saltpearl
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