第十二章、実り、長野健斗

 興奮が冷めやらぬまま、教室に戻る。好意は嬉しい。ただ人を振るのには結構なエネルギーを使うことを、だんだんと理解してきた。少しずつ倦怠感に支配されていっている気がする。


 いつもにも増して重いドアをスライドさせると、そこには明日香がいた。放課後の教室に一人佇んでいた明日香の横顔が、夕日に照らされていて、まるで明日香の周りだけ時間が止まっているようだ。どう声をかけていいのか分からず、俺はよっ、と発音する。明日香はゆっくりと俺の方に歩いてくる。


「どう・・・だった?」


 明日香はそう一言呟いた。


「告られたけど・・・振った」


 明日香の方を直視できない。明後日の方角を向いてしまう。


「そっか・・・」


 感情が一切掴めない、均質な声が返ってくる。その直後、明日香は俺に体を向け、俺の目をはっきりと見据えた。熱い視線が俺に注がれた後、明日香は握りこぶしを作り、息を吸い込んだ。またあの動き。あの動きの後、明日香はいつも決定的な何かを起こす。電車のあの時とは違って、今の俺は、明日香の次の行動に期待してしまっている。


 窓から暖かい風が柔らかく吹き寄せてきて、二人を優しく包み込んだ。


 ―――今だよ、明日香。


 俺は心の中でそっと呟き、目の前の大切な人に笑いかけた。

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