第六章、交錯、海野寛太

「早瀬さん」


 僕は勇気を振りしぼって、購買にいる彼女に声をかける。高いポニーテールをたなびかせながら、早瀬さんは振り向く。早瀬さんは僕に、にこっと笑いかけた。


「どうしたの?海野くん」


 覚悟して深呼吸する。そして早瀬さんに再び目を合わせる。


「噂で聞いたんだけど、長野と付き合ってるって本当?」


 足がぶるぶる震えているのがバレませんように。本当は聞くのが怖い。付き合っている、なんて言われたらどうしよう。


 不安を感じている僕とは対照的に、早瀬さんの表情には笑みが浮かんできた。まるで僕が聞いたことがおかしかったかのように。


「んな訳ないじゃん!友達っていうか親友だよ?ライバルだし。付き合うとかそういう関係じゃないよー」


「そっ・・・か!ありがとう!」


 一息でそう言い切る。何に対する「ありがとう」なんだろう。急に恥ずかしくなって、早瀬さんに背を向け、僕は走り出す。かつてなく、フットワークが軽くて、朝が憂鬱じゃない。あの感じだと、付き合っていないのは本当っぽい。多分電車の事件は、早瀬さんの咄嗟の機転だったのだろう。これは河上さんと共有すべきだと思い、メッセージを送信した。

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