そして、恋は始まる。

潮珱夕凪

プロローグ、河上美央

 左頬を、桜の花びら混じりの春風が撫でていく。青空はどこまでも続いていて、薄い雲で少し霞んでいた。肩の長さに切り揃えた髪がふわっと舞って、視界を覆う。


 風が凪ぎ、視界が通学路の風景に戻ると、遠くの方に、付き合っている距離感の見知った男女が見えた。笑いながら、校門に吸い寄せられていった。


 そんな彼らの視界に、私は決していないだろう。


 胸がちくちくして、じんと痛む。目元がわずかに熱くなる。


 ―――どうか、どうか振り向いて。


 そう、切に願った。私の頬を一筋の涙が伝っていた。空は、やはり青くて、眩しかった。

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