第十章、気づき、早瀬明日香
―――なにこれ、健斗告白されるかもじゃん。
健斗の肩から身を乗り出したら、見てはいけないものを見てしまった。美央ちゃんにはすごく申し訳ない。
でも、それと同じぐらい私の胸が壊れて、張り裂けそうになってしまっていることに気づく。美央ちゃんが健斗に告白しようとしているかは定かでない。でも、理由が分からない不安が、さっきから頭の中をぐるぐる回っている。
もし健斗が美央ちゃんの想いに応えてしまったら。もし二人が付き合ってしまったら。まず確実に健斗とは今の関係でいられなくなる。それが怖かった。当然、一緒に登下校とか無理だし、今みたいにいっぱい話せない。ぱっと思いついたのがこの二つだけど、まだまだ制約が増える、きっと。
―――嫌だ、そんなの絶対嫌だ。
でも、言葉が見つからない。さっきから、永遠のような沈黙にいる。今、私はどんな表情をしているのだろう。少なくとも、この表情は絶対に健斗に見られたくないのは確かだ。私は健斗から離れ、背を向けた。そして、私自身の気持ちの確かめ、という意味も込め、健斗に尋ねてみた。
「もし、美央ちゃんに告られたら、付き合っちゃうの・・・?」
口に出してみると分かった。不安なのは、健斗が美央ちゃんに取られるのが怖いからだ。ならば、行動しないと。この気持ちには気づけていなかったかもしれないし、もしかしたらずっと、見て見ぬふりをし続けてきただけかもしれない。
―――それならいつからだろう。
心の中で呟いてみた。塾で一緒に頑張ってきたとき、入学式で同じクラスになれた日、電車の中で手を繋いだあの日。色々な出来事と、そこにいた健斗の姿と表情と言葉の数々が走馬灯のように蘇っては、流星群のように降り注ぐ。私の脳と心を埋めていく。
―――俺、海陵星則受けようと思う。
この言葉が私の人生を変えたよね。健斗がそう言ったから、私は、ありえないぐらい頑張れたんだよ。全ては、健斗と同じ学校に行きたかった、それだけなんだよ。
―――靴、取り違えられちゃったみたいで困ってるみたい。このままだと帰れなくね
健斗、美央ちゃんの前で固まってたのに、私の前では急に饒舌になったから面白かったよ。相当緊張したはずなのに、美央ちゃんのことを心配して助けようとしたの、かっこよかったよ!
―――だって、陰キャぼっちコミュ障の俺だもの、仕方ない
ほら!健斗はいつもそう言う!私は健斗が健斗だから一緒にいるんだよ?健斗のそういうところ、一緒にいて楽しいよ。
やっと分かった。私には健斗しかいない。それなら、美央ちゃんに告られる前に先手を打たないと。今、健斗に意識させたい。私の想い、届けっ。
「私は、嫌だなぁ・・・健斗と離れたくないよ。ずっと一緒がいいよ。」
振り向いて、まっすぐに言った。健斗に、私の想いが少しでも伝わっていますように。そう、ただ強く強く願う。その瞬間、健斗の目はぱっと見開かれた。そのわずかに揺れている黒い瞳の中心に、私は確かに映っていた。
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