第九章、展開、長野健斗
靴箱に何か入っている。靴箱の前で立ち尽くしていると、明日香が俺の背後からやってきて、肩の上からにょきっと顔を出し、俺の手元を覗き込んだ。まずい。最高にまずい。明日香にこの手紙を見られてしまった。俺の胸の鼓動は明日香に聞こえていないだろうか。
明日香は息を呑んだ。そして俺から離れ、背を向けた。
「もし、美央ちゃんに告られたら、付き合っちゃうの・・・?」
明日香の声は震えていて、表情すら見えない。だが、この気持ちは何なのだろう。俺の胸はさっきからずっと高鳴っている。何が俺に胸騒ぎをさせているのか。俺は明日香の質問に答えられずにいる。
すると、明日香は振り向いて、さらに衝撃的なことを言った。俺はもう何も言えなかった。彼女から目を逸らせなかった。ただ心臓が、熱い鼓動を刻んでいた。
結局、俺と明日香は一言も会話せずに教室へと向かった。こんなこと初めてだ。明日香は俺のことをどう思っているのだろうか。
―――もしかして、明日香は俺を・・・
その考えを秒で殺す。さすがにないと無理やり俺自身に信じ込ませる。でも、あの事件の時に繋いだ手のぬくもりと玄関での出来事が頭から離れない。心に温かいものが流れ込んできて、頭がおかしくなりそう。この気持ちは何なのだろう。これが「意識する」ということなのだろうか。
―――俺は、どうしたらいいのだろう。明日香に対して。それに、河上さんのことも。
そもそも、河上さんは、俺に好意を持ってくれているのか。こんなコミュ障陰キャぼっちの俺に、好きになってもらえる要素があっただろうか。
考えても答えは出ない。俺は考えるのをできるだけ避け、放課後までやり過ごした。
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