人界、妖界、(鬼界)それぞれが別視点で展開される同一世界観ものが好きな方にもお勧めですが、個人的には「学校の怪談」「地獄先生ぬ〜べ〜」「夕闇通り探検隊」「トワイライトシンドローム」などを彷彿とさせる学生が主軸となって怪異に遭遇するお話が大好きなので、そんな私と似た趣味の方は特にご一読いただきたい作品です(あと結界系は漫画でいうとサンデー系列に多い印象ですね)。
妖怪ものの王道を逸らしつつ、独自の世界設定の細微さにこだわりを感じます。
妖怪が単に人に害をなす存在ではなく、あくまで人界と異なる世界の住人である点も価値観の違う人と同じ知的生命体として、異邦人と日本人の関係性に似ている気がしました。
するする読めます。
主人公の親しみやすい目線で、スイスイ読み進めるうち、ぐぅっと物語に引き込まれます。
ばさっ、ばさっ……。
人が乗れる大きい猛禽の背に乗り、妖界の山、平地を見下ろし、幻妖京を目指します。商店街があり、宮中があり、着物の妖が往来する都。遠くにはひときわ高い雪山。
幻妖京にはきな臭い気配がし、山の向こうには、何かまだ物語が広がっている気配がします。
それもそのはず。妖界の登場人物は、全く別の物語をバックボーンに持ち、堂々この物語に参戦しているのです。
キャラそれぞれ良いのですが、私は旦《わたり》が好きです。
主人公をからかっては、ニコリ! と大変良い笑顔を浮かべる旦は、めっぽう腕がたち、大きな悔恨を持ち、上におもねることなく、忠義を尽くす男です。
その悔恨が、どう昇華するか。それもこの物語できちんと描かれます。
最新話の初夏の雪も、とても面白いですよ!
旧家の分家に生まれた奏太は、その自覚なく「普通の」生活を送っていた。
しかしある日、本家に呼ばれ「妖界と現界の境界に結界を張る役割」を担うよう一方的に言い渡される。
以前「役目」について説明を受けたことはあるが、よく話を聞いていなかった奏太にとっては寝耳に水。しかしお付きの妖、汐と亘の強引な誘導もあり、否応なしに結界を閉じる役目を担うことになる。
妖界と現界の狭間に近づく役割故、奏太は次第に妖界の事情に巻き込まれていく……
個人的には「現実世界のすぐ傍に、人間世界と全く違う論理で動いている異世界が併存している」という世界観が好きなので、妖界という異世界が併存する本作の世界観には強く惹かれます。妖のビジュアルがイメージしやすく、また個性的な面々がそろっているので会話劇も楽しいです。彼らが本当に存在していたら世界はもっと彩り豊かに見えるのだろうなと感じました。
また、奏太のまっとうな倫理観と正義感は見ていてほっとします。善悪を即座に判断し行動する彼の生きざまに共感できたので、するすると読み進めることができました。その真っすぐな性格故に色々な人や妖に振り回されますが、それもまた彼の魅力です。「陽の気」という異能を使える存在でありながらも、少しも偉ぶらない、等身大の学生である点に好感が持てます。
「千と千尋の神隠し」や「猫の恩返し」などの世界観が好きな方はハマると思います。
(※本レビューは、人界編第89話 初夏の雪⑤ : side.柊士ー までを読んだ時点での内容となります)
主人公が育った山に囲まれた集落では、神社に祀られた大きな岩に触れ掌が光った子供は、鬼や妖が住む世界と、人間が住む世界を隔てる結界を守護する役目を担う。
大人になったある日突然結界の修復を命じられ、最初は戸惑っていた主人公も、徐々に力をつけ頼れる守護者へと成長していきます。
物語のテンポがちょうど良く、先の展開が気になって次々と読み進めていました。
色んな妖怪が出てくるので、僕のような妖怪好きには堪らない小説です。
妖怪はよく悪役にされてしまいますが、味方にも妖怪がいる所もいいです。
妖、鬼、怪奇、という言葉が気になった方は、ぜひ読んでみてください!
人界、妖界、鬼界——
三つの世界の理を守るため、奏太はそれぞれを隔てる結界の補強を任される。
奏太くんは役目を言いわたされるまで三つの世界があることも結界のこともなにも知らず(正確には知らされてはいたけれど寝ていて聞いておらず)、右も左もわからない状態から結界の補強を務めることとなります。
コミカルでおだやかな物語とハラハラする恐ろしい物語とがくり返されるなか、彼のもといた日常が非日常に侵食されていくさまに、気づけばすっかり世界観にのまれてしまいます。
妖怪のみなさんも魅力的で、妖怪好きとしてはたまりません! 奏太くんまわりの人間関係のこれからも気になるところ。
あやかし×バトル×青春にぴんときた方は、ぜひ読んでみてください!
中学生の頃、父方の実家の集落で「大岩様」と呼ばれる岩に触れる、不思議な神事に参加した奏太。
参加した子供たちの中で、なぜか奏太と柊士、結の三人だけが、手が光る。
──それは、「陽の気の使い手」の証。
やがて大学生になった奏太が、妖界のあやかし達や鬼界の鬼達が人界に入ってこないよう「結界」の守り手の役割を担うことになる──という和風ファンタジー作品です。
柊士や結と一緒に役目を引き受けられればベストだったのですが、柊士は本家の大事な後継者であり、結も一年前に亡くなってしまったたため、奏太一人の状態です。
でも大丈夫! 奏太が行動を共にする、蝶の妖(あやかし)の汐(うしお)と、鷲の妖の亘(わたり)がとても頼もしいのです。
冒頭の不思議な因習に主人公が参加するシーンから、あっという間に魑魅魍魎の跋扈するファンタジーの世界へと引き込まれます。
そして、大蝦蟇や烏天狗(からすてんぐ)をはじめ、様々な妖怪が登場しますので、妖怪ファンにはたまらない内容です。
また、同じ力の使い手である柊士や結についてもしっかりと伏線が張られており、今後の展開が気になるところです。
真摯に役目と向き合う、頑張る奏太を応援します!
人界、妖界、鬼界。本来は結界で隔てられているはずの三つの世界の境界の綻びを結び直し、閉ざす。
なぜそうしなければならないのか、前任者はなぜ死んだのか。日常を生きていたはずの主人公は、何も分からぬままにその役目を任される。
主人公が何も分からないからこそ、彼と共に見届けていく読者もまた主人公と同じように疑問を抱き、そして真実を知ることができる。
妖たちもまた個性的で、和風ファンタジーが好きな方にはたまらない一作でしょう。
疑問がある。何としてもという願いもあれば、悲しいこともある。これは役目というものを負うことになった人の業や、それを取り巻く人々の思惑に振り回されながらも、進んでいく物語なのかもしれない。
ぜひご一読いただき、主人公と共に物語を見届けて欲しいと思います。